蔦屋重三郎外伝~戯家 本屋のべらぼう人生~
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(3)蔦重の酒席の階下に武士の姿
蔦重の酒席を憎々しげに見上げる武家は端正な顔立ち、そこに怜悧さが加わる。なかなかの押し出しだが、年齢はまだまだ若い。 ほどなく、彼のもとへ数人の侍が駆け寄ってきた。 「遅くなりました」…
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(2)山東京伝、私が売ってみせます
本の値打ちを見直させてやる。蔦重、ついホンネを漏らしてしまった。聞かれてまずくはないけれど、酔いに任せた大言壮語と思われては癪だ。まして「マジです」「やってみせます」と力み返るのは無粋の骨頂。 …
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(1)誰もが約めて「蔦重」と呼ぶ
〈プロローグ〉 振り袖姿の娘がひょいと細縄に飛び乗った。それを合図に三味線に太鼓、派手な音曲が座敷に響く。 ふわり、ゆらり、娘芸人は胡蝶のように末席から首座へ、皆々の頭上を渡っていく。…