「森のバルコニー」ジュリアン・グラック著 中島昭和訳
「森のバルコニー」ジュリアン・グラック著 中島昭和訳
見習士官グランジュは、ファリーズ高地の監視哨に配属となった。ベルギー領アルデンヌの森の中に造られたトーチカのひとつで、低くかがんだ形のコンクリートの団塊である。彼らの任務は、工兵隊が退却しながら道路を爆破するので、その切断された箇所で身動きができなくなった戦車を破壊して、敵の動きを通報することだ。コンクリートの上を歩くと、鋲(びょう)を打った靴のかかとが音を立てる。
ここで眠るのは、灰色の海を航海する帆船の甲板の上で寝ている船客のようだ。戦争は布告されたが、ここでの生活は農村の生活そのもので、司令部からの回状よりも、風雨や季節といったもののほうがはるかに重要なのだ。
ナチス侵攻前、森の中で「猶予」の状態に置かれた兵士たちの不安が伝わってくる。
(文遊社 2750円)