「カンヴァスの恋人たち」一色さゆり著
「カンヴァスの恋人たち」一色さゆり著
碧波市の白石美術館の企画会議で、学芸員の貴山史絵は市内在住の80歳の画家、ヨシダカヲルの個展を提案した。戦後、女性画家として名を上げたが、今では「消えた存在」になっている画家だ。
副館長は、ヨシダにはよくない噂があると反対する。史絵が訪ねてみると、ヨシダは山奥に立つ木造の平屋に、野生児のようなエイトという青年と一緒に暮らしていた。
個展を開きたいと申し入れると、ヨシダは特に承諾はしなかったが、子どもが無料のチャイルドデーに美術館にやってきた。耳の聞こえない少女がミレーの「晩鐘」に見入っているのを見て、ヨシダは個展開催を承諾する。史絵は、ヨシダは20年前になぜ筆を折ったのだろうかと思った。
秘められた愛を抱えて生きる女性画家を描く長編小説。
(小学館 1870円)