いま傾聴したい世界的名医の箴言 終末期を描いた映画「愛する人に伝える言葉」主治医役
「私は患者に感情移入し、ときに涙を流してもいいと思っています」
――主治医やスタッフが患者に感情移入して涙したり、抱擁したり。これも日本ではあり得ません。
「落ち込んだり、悩んでいるとき、どうしたのと耳を傾けてもらうと、心が安らぎますよね。それと一緒です。がんの余命宣告など、計り知れない衝撃をもたらします。ひとりで処理できるものじゃない。医師にはそんな感情を受け入れる必要性を私は感じますし、感情移入し、ときに涙を流すくらいいいと思うんです。機械的な説明や態度しかしない医師や看護師がいたり、『落ち込むな。ちゃんとしろ』と言うのは最悪ですよ。感情を心に閉じ込め、自分で処理しろというのと同じです」
――医療を施す側に、患者と感情を共有してはならないという不文律もあるのでは?
「いちいち反応していたら、メンタルが持たない。だから心に鎧をつけ、感情を共有しないようにということでしょうけど、これは違うと思います。私は患者と寄り沿うパートナーでいたい。辛い思いもしますが人生の財産になりますし、感情を共有しこちらも表に出すことで、バーンアウトも回避できる。私が鼻歌混じりに廊下を歩いていると、『先生はタフですね』と言われることがあるのですが、これもちょっと違う。いつもタフであることを自分に求めていないのですからね」
■伝えておくべき5つの言葉
――映画のタイトルでもある、末期の患者が近親者に伝えておくべき言葉として、私は赦す、私を赦して、ありがとう、さようなら、愛してる、と5つの言葉を挙げられています。
「赦しを与える、赦しを 請うというのは魂を解放することになるし、怒りも鎮めると思うのです。日本では『愛している』と思っていても、そう口にして言わないでしょう。でも、とてもシンプルな言葉で伝わりますし、言われたら嬉しいですよね。私の妻でいてくれて、こども、兄弟でいてくれてありがとう。終末期も、そんな言葉だけで、とても光り輝く。その時が来たら私も言うつもりです。命が絶える時が道の終わりですが、それまでの道のりは自分で決められる。映画は美しい死を迎えるシュミレーションになるとお勧めしたいですね」
(聞き手=長昭彦/日刊ゲンダイ)
▽ガブリエル・A・サラ 1954年、レバノン出身。米ニューヨークのマウント・サイナイ・ウェスト病院医療部の上級指導医。化学療法病棟の医長ならびに患者サービス部門の顧問。名医として知られ、ニューヨークタイムズ版《Super Doctors》などにランクインしている。本作はエマニュエル・ベルコ監督がサラ氏を取材し脚本にする中、演じるのはサラ氏しかないとオファーを出して出演となった。
《ストーリー》演劇を学生に教えるバンジャマン(ブノワ・マジメル)はすい臓がんを患い、母クリスタル(カトリーヌ・ドヌーヴ)と、わずかな希望を求めて名医と評判のドクター・エデ(ガブリエル・サラ)を訪ねる。そこで「治癒は見込めない。一緒に進みましょう」と言われる。マジメルは本作でフランスのアカデミー賞にあたるセザール賞で最優秀男優賞に輝いた。10月7日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほかで全国公開。