草彅剛、ジェシーらは「演技が下手」なのか? 棒読み俳優がドラマで重宝される理由を解説

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コクハク

SixTONESジェシーの演技に賛否あるが…

 趣里さん主演『モンスター』(カンテレ/フジテレビ系)に出演するSixTONESのジェシーさんの演技が「棒読み」であると、さまざまなニュースサイトで取り上げられています。

 ですが毎週楽しんで視聴をしている筆者から見ると、確かに平坦なセリフ回しの印象はあるものの、言われなければさほど気になりません。むしろ、無感情さが作品に馴染んでいると思うほどです。

 ジェシーさん以外にも、草彅剛さん、東出昌大さん、西島秀俊さん、福士蒼汰さん…など、「セリフが棒読み」と言われている俳優は数多くいます。しかし、どの役者も映画・ドラマなどのオファーがひっきりなしです。

 世間では批判される彼らが、なぜそこまで求められているのでしょうか。

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草彅剛、東出昌大らは「棒読み」なのに評価が高い

 棒読みだと意見がある俳優の中でも特筆すべき活躍をしているのは、草彅剛さんではないでしょうか。今年は朝の連続テレビ小説『ブギウギ』で主人公・福来スズ子の恩師である羽鳥善一を演じ、大変な高評価を受けました。

 草彅さんは2020年の映画『ミッドナイトスワン』でトランスジェンダーの役を演じ、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞しています。

 また、冒頭で名前を挙げた主な棒読みだとされる俳優の中には、西島秀俊さんが2021年の映画『ドライブ・マイ・カー』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞、東出昌大さんも今年、『Winny』で日本映画批評家大賞主演男優賞を受賞しました。

 プロの目からみたら棒読み=演技が下手というわけではないのです。セリフが棒のように聞こえても、作品の中に溶け込み、演じる人物をきちんと表現できていれば問題ありません。

 むしろ、作品によっては監督から抑揚のない演技、つまり棒演技を求められることだってあるのです。

大げさな感情表現を嫌う名監督たち

 映画『東京物語』などで知られる日本を代表する映画監督・小津安二郎氏の作品には、故・笠智衆さんをはじめとする朴訥で抑揚のないセリフを放つ役者が多く出演しています。

 よくお笑い芸人さんが「昭和の俳優」としてモノマネのネタにするのは、小津作品の俳優の棒読みを想起させるものが多く、誰もが平坦な口調の棒演技です。若い人の映画評でも「昭和の役者はなぜ棒読み?」などという疑問がちらほら見られるほど。

 しかし、それは小津弁や小津節などと呼ばれる、演出であることは映画ファンの間では広く知られるところです。小津監督は「人間は悲しい時に悲しい顔をするもんじゃない」と俳優が演技やセリフに感情を込めることを嫌い、演技らしさを排除した演技を要求していたといいます。

 そのことで、脚本に込めた物語や思いを余計な装飾なく表現でき、感情を排した演技の中にリアルさがにじみ出て、そのセリフが感情を込めるよりもダイレクトに受け手に伝わるのだといいます。

「棒読み」だからこそ心に響く理由とは

 西島秀俊さんの『ドライブ・マイ・カー』や東出昌大さんの『寝ても覚めても』で知られる濱口竜介監督も、まずは出演者たちで「感情を排除した本読み」をくりかえして、セリフを自分のものとしていく演出方法をとっているそうです。

 濱口監督作品は、ストーリーの展開より、登場人物の心の機敏を訴えるような作品が多いです。繊細な感情の変化を大事にしているからこそ、たとえ棒読みに聞こえようともリアルなセリフ回しが重要になってくる。それが狙い通り観客にも伝わっているから映画としての評価も高いのでしょう。

 映画の中の素晴らしいセリフも、棒読みである=役者の言い方に余計な装飾がないことによって、観客の心に言葉そのものを刻ませることに成功しています。

 NHKの朝の連続テレビ小説『あまちゃん』で鮮烈な印象を残した福士蒼汰さんは、デビュー当時はそこまで棒演技だとは言われていませんでした。それは、抑揚のない喋り方が、東北地方のイントネーションにバッチリハマっていたからだと思われます。

 また、草彅剛さんの『ブギウギ』での羽鳥役が好評だったのも、その平坦な喋り方が前述の小津映画をはじめとする「昭和の映画の喋り方」のようで、昭和期の雰囲気に合っていたからと個人的には考えます。

抑揚のない言い回しを求められる

 棒演技と呼ばれがちな抑揚のないセリフ回しは、監督の演出だけでなく、作品の内容によっても求められています。

 たとえば、難解で説明が多く必要な事件ものや法廷ものの作品で、説明役を担う役者は、今後の展開に繋がる情報をわかりやすく受け手に伝えることが重要視されているため、感情を込めた演技の必要はありません。感情を込めると内容が逆に伝わりにくくなるからです。

 また、平坦な話し方をすることで、語る内容や語り手そのものが謎めき、ストーリーへのさらなる興味も引き寄せられます。

棒読み=演技が下手ではない

 なので、棒読みだから演技が下手、ではないのです。ジェシーさんの演技も『モンスター』の内容が緻密な法廷ドラマだからこそ、情報を伝える語り手として適しているのではないかと筆者は考えます。

「棒読みすぎて気になってしまう」という意見の理由を探すとすれば、趣里さんや宇野正平さん、古田新太さんなどの名優に囲まれ、経験が少ないゆえの未熟さが際立っているだけではないでしょうか。

 ジェシーさんも、モデルやアイドル活動だけでなく、演技の経験を積んで、このセリフ回しが味になるくらいの活躍を期待します。

(小政りょう/ライター)

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