今は“地獄”なのか? G伊東キャンプを知るOBが当時を語る
「長嶋監督はメンタルと体力を強化してくれと。吐くまでやっていいと言った。だから技術のことは一切言わなかった。ランニングは、オートバイのモトクロス場として造られた1周800メートルのデコボコ道でやった。ゴール前の上り坂は傾斜が約30度。長さは80メートルの急勾配。ここでタイム走を10周もやらせたし、アメリカンノックでもかなり走らせた。驚いたのは入団1年目の江川。スタミナは西本の方が上だと思ったが、きつい練習でヘトヘトになっても息切れしない。いつも手抜きしていたが、眠っている体力はすごいものがあると、そこで認識した」(高橋氏)
コーチ陣に「吐くまでやらせろ」と命じた長嶋監督は、ヘロヘロになった選手を見てほくそ笑んでいただけではない。
「朝食時間のはるか前から、宿舎前のグラウンドからカーン、カーンという打球音が聞こえてくる。疲れ切った選手たちは3日目ぐらいから寝床ではピクリともしない。私も『こんな早朝からうるさいな』と思って窓からグラウンドを見ると、長嶋さんがスイッチに転向させた松本(匡史)の打撃練習につきあって、マシンにボールを入れている。文句は言えませんよ。地獄のキャンプなんて見出しをつけるのはスポーツ紙の勝手だが、キャンプは練習時間より内容が大事。危機感を持った指導者が目的を持って、選手を限界まで追い込むことができるかどうか。ありきたりの練習しかやらなければ、同程度の結果しか出ません」(高橋氏)
シンクロの井村コーチは「鬼」になって約束のメダルを取った。球界は名ばかりの地獄のキャンプで何が得られるのか。