球界金銭事情「10の疑問」プロで50年の内田順三氏が答える
今季の日本球界最高年俸は巨人・菅野智之の6億5000万円。成績次第で大金が稼げるプロ野球の世界だが、何かと謎も多い。昨年まで巨人で巡回打撃コーチを務め、広島、巨人で指導歴37年、現役を含めて計50年間、プロのユニホームを着続けた内田順三氏(72)に、球界の金銭事情について聞いた。
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【問1】契約金、年俸はどうやって支払われますか?巨人、広島など球団によって違いますか?
契約金は12月に半分、翌年1月に半分が振り込まれるケースが多いと聞いたことがあります。昔は「これだけもらえるよ」と本人に現金を見せてプロ野球選手になったことを自覚させた、なんて時代もありましたが、今は銀行振り込み。ドラフト1位の選手の契約金の上限は1億円プラス出来高払い5000万円。そのため、5000万円は入団当初ではなく、「3年間の一軍の登録日数」といった条件をクリアした時点で支払われます。
年俸はどこの球団も12分割で月給制ではないでしょうか。
【問2】そのうち、税金でいくら引かれますか?
例えば年俸1億円の選手なら、半分近い額が税金として引かれます。
【問3】選手の年俸アップ、ダウンはどうやって決まるのですか?
かつてはドンブリ勘定だった時代もありますが、今は球団が細かいデータを持っていて、打撃だけでなく、守備の貢献度なども分かる時代。成績、貢献度で決まるといっていいでしょう。ただ、中継ぎ投手の場合、登板数は30試合でも、肩をつくったのに登板しなかった試合が多いこともある。投手コーチが投球練習の数を数えているので、投手が契約更改の時にそういった数字を球団に提示して、ダウン幅を少なくしてもらったという話を聞いたことがあります。
【問4】コーチの年俸もアップやダウンがあるのですか?
選手と同じで、複数年契約を結んでいるコーチの年俸は基本的には変わりません。私の場合、広島、巨人での37年間の指導者時代だけでなく、現役も含め、50年間のユニホーム生活の全てが1年契約でした。それでもコーチ時代は、大きく上がったり下がったりはしませんでした。チームの成績が悪かった場合、年俸が下がるより前に、責任を取って辞めることになるのがコーチです。
広島の古葉竹識監督の時代は、リーグ優勝なら300万円、2位なら200万円、3位なら100万円という「コーチ配当金」がありました。よくカープは年俸が安いといわれますが、こういう手当はありがたかったですね。
高級外車に乗る理由は?
【問5】内田氏は広島、巨人の両球団をコーチとして3回ずつ行き来しました。契約金はそのたびに支払われるのでしょうか?
それぞれ1回ずつだったと思います。巨人は一番最初の1994年時。広島は最初じゃなくて、2度目の2003年の時だったかな。ただ、契約金はなくても、2度目、3度目の就任時は両球団とも年俸が少し上がっていました。それが契約金代わりだと受け止めていました。
【問6】プロ野球選手はなぜ高級車に乗るのですか?車の思い出は?
私は何台か外車を乗り換える中で、特にジャガーが好きでした。600万~800万円ほどのクラスですね。球界ではそれこそ何千万円という高級外車を乗り回す選手も多い。頑張った自分へのご褒美としてです。ステータスという意味合いもあるでしょう。何より、ベンツなどの高級外車は、頑丈で身を守るためというのが一番です。
【問7】月々の寮費はいくらでしたか?
巨人で初めてコーチに就任した94年から2年間、選手寮で生活しました。当時は月に3万5000円から4万円だったと思います。3度の食事と光熱費込みです。夜遅くでも、いつでも食事が取れるように、夜食も用意してくれます。
飲食代は1カ月いくら使う?
【問8】選手、監督、コーチなどは、飲食店経営、不動産、株など、副業や財テクをしているのでしょうか?
飲食店といえば、広島市内にある金本知憲が選手時代にオープンした店が有名です。
カープの選手時代、日南キャンプで利用する宮崎地鶏の店の常連だった金本が、宮崎店のオーナーにレシピを教えてもらい、広島にオープンした店。金本は他にも飲食店を手広くやっています。
選手、監督、コーチが副業として飲食店を経営することは多く、コーチが経営する焼き肉店でコーチ会を行うこともあります。私は広島市内に、かつて住んでいた一軒家とマンションを持っていて、それを貸し出して家賃収入を得ています。
【問9】プロ野球選手、コーチは1カ月にいくらほど飲食代を使うのでしょう?
遠征のたびに後輩を引き連れて外に出るタイプなら、1カ月で100万円以上を使うケースもあるでしょう。
冬の自主トレ期間中は巨人では阿部慎之助や坂本勇人、菅野智之らが後輩を連れて海外でトレーニングをしていますが、何百万円という金額を負担しているようです。
【問10】プロ野球界にご祝儀の相場はありますか?
それは本人との関係でしょうね。私はコーチ時代、選手の結婚式に出席する場合は10万円、欠席する場合は5万円を渡すようにしていました。
カープには「コーチ会」というのがあって、年俸から冠婚葬祭費として月々3万円が引かれ、それを積み立てるんです。例えば選手の結婚式なら代表者が30万円を持参します。あとは選手の家族、OBの不幸や出産祝いなどを「コーチ一同」として、そこから捻出します。年間で引かれる額は1人30万~40万円ですが、余った分は年度末の11月末に返金されます。私の場合、それが小遣いになっていました。巨人はそういうのはなく、個人の自由に任されていました。
(聞き手=増田和史/日刊ゲンダイ)
▽内田順三(うちだ・じゅんぞう) 1947年9月10日、静岡県生まれ。東海大一高から駒大。13年間の現役生活はヤクルト、日本ハム、広島で主に外野手としてプレー。計950試合出場で打率・252、25本塁打。82年に現役引退、翌83年に指導者に転身。広島、巨人で打撃コーチ、二軍監督などを歴任し、多くのタイトルホルダーを育てた。昨年限りで巡回打撃コーチだった巨人を退団。今季は社会人野球のJR東日本で外部コーチを務める。