なぜパは強いのか?元ロッテ、オリ監督・西村徳文氏に聞く
キャンプ終盤に差し掛かるプロ野球は、セ・パの実力格差が顕著だとかまびすしい。ともに巨人とソフトバンクが戦った2019年、20年の日本シリーズは、ソフトバンクが2年連続で4連勝。過去10年間のシリーズでは、パの日本一が9回と、セを圧倒している。現場で指揮を執ってきた立場として、パの強さの秘密やリーグ間の実力格差をどう感じているのか。ロッテ、オリックスで監督を務め、2010年にロッテを日本一に導いた西村徳文氏(61)のインタビューを掲載する。
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――日本シリーズの成績もさることながら、パにはソフトバンクの柳田のように力強いスイングをする打者が多い。投手も先発、リリーフにかかわらず、球威があり、球速も速い傾向があります。
「1982年のロッテ入団以降、パ・リーグ一筋でやってきた立場ではありますが、パはセと比べて力強い打者が多いかなというのはあります。監督として戦っていても、やっぱり怖さがある。そこを何とか抑えないといけないとなると、今度は投手が大事になってくる。当然、全体的にレベルも上がっていくと思うんですよね」
――レベルが高くなればなるほど、選手間の競争も激しくなります。
「成長なくしてレギュラーは取れないという思いは12球団、どの選手も持っているでしょうけど、私自身の現役時代を振り返っても、長距離打者ではなかったですから、違うタイプの選手として、しっかり結果を出さないとレギュラーは取れないという思いは強かった。打撃はもちろん、走塁、盗塁に関しては、負けるわけにはいかない。そう思いながらやっていました。今の選手たちもそうだと思うんですけどね」
■「強打者に負けない魅力を磨く」
――さまざまなタイプの選手が、生き残るために何をすべきかという意識、意欲が高まる効果もあるわけですね。
「私自身はいわゆる短距離打者でしたから、力負けしないようにとにかくバットを振り、いかに打ち返すことができるかということを心がけてきました。それには練習の質も大切。両打ちだった私は左打席の練習で、遊撃の頭を越えて左中間を抜く打球を打つ練習を繰り返した。守備、走塁も含めてパワーのある打者に負けない魅力がないといけない。そういう思いでやってきました」
「ソフトバンクは個々の役割を徹底していた」
――その中でも、ライバル球団のソフトバンクは昨年まで4年連続日本一と、強さが際立っています。監督時代、対戦相手としてどう見ていましたか?
「それぞれタイプが違う選手の集まりですから、個々の選手がそれぞれの役割を果たすことが大事。その点でホークスは、何をすべきかを徹底していた。打者ならケースに応じて、狙い球を絞ったり、絶対に初球から打ちにいかなかったりといった意識が浸透していたように感じます。これは、指導者が教えないと選手はわからないもの。1試合で4打席あれば、それぞれ点差や走者など状況が違います。そうした状況判断ができるかどうかが、勝ち負けという結果につながっていくからです」
――育成に関しても、定評があります。
「ホークスのやり方を見習うというか、他球団も徐々にそうなってきてますよね。ホークスの選手はもともとのレベルも高い上に、成長スピードも上がってきているように思う。育成環境については球団経営の問題も絡んできますが、主力が故障したときに代わりの選手が結果を出してくれるに越したことはない。自前の選手をいかにレベルアップさせ、一軍に送り込めるか。12球団すべてが同じことをやるのは難しいかもしれませんが、良い部分はどんどん取り入れていくべきでしょう」
――昨年の日本シリーズでは、巨人の主催試合でもDH制が採用されました。ソフトバンクとしては戦いやすかったのではないですか?
「パは普段、投手が打席に入ることがありません。交流戦でセの本拠地で戦う試合では、投手が死球を受けたら……などと大変、気を使いました。ロッテ監督時代、交流戦で投手が走塁中に太ももを肉離れしたこともあった。投手が打席に立てばアウトを1つ献上しないといけないというふうにもなりますしね。逆にDHなしを提案されたら? 絶対に断ります(笑い)」
――セ・パのレベルの差が、日本シリーズの結果に出ているのでしょうか。
「ロッテ時代、2005年はコーチ、10年は監督として日本シリーズに出場し、ともに日本一になることができましたが、一概にシリーズの結果だけを見て、レベルが違うという話にはならないと思いますね。私が現役だった時代はセには負けたくないという思いが強かったですけど、いろんな検証が必要だと思います。私自身はプロ野球は12の球団しかないのですから、12球団が一つになることで一体感が出て、相乗効果も生まれると思います」
「セもDH制を導入し12球団でルールを統一すべき」
――かねて巨人が主張しているセのDH制導入には賛成ですか? 反対ですか?
「私自身、DHのあるパで育った立場としては、セもDH制を導入し、12球団でルールを統一するのがいいのではないか。すぐに良い方向に行くかどうかはわかりませんが、まずは投手のレベルが上がっていくでしょう。野手が9人打席に立つのですから、投手は1番から9番まで気を抜けません。打撃がいい投手も中にはいますが、足のある9番打者が走者として出た場合、バッテリーに与えるプレッシャーは全然違います」
――打者の育成にもメリットがありそうです。
「DHがあることで、選手は自分の特徴を生かしやすい面がある。打撃力を武器とする選手は、DHなら打撃に専念できますが、DHがなければ守備に目をつむらないといけないケースもある。そうなると、一つのミスによって、大量失点につながる可能性もあります。私は、スタメンで出た選手は試合終了まで出続けてほしいと思っています。打撃優先で起用すると、ゲームを運んでいく過程で、守備固めを起用する必要も出てくる。私はそういう選手の数が多ければ多いほど、チームとして機能していかないという考えを持っています」
――ほかにもDH制のメリットはありますか?
「オーダーを組む際にも、DHに長打のある選手を入れたり、足のある選手を入れたりと、さまざまなバリエーションの打線を組める。また、シーズン途中にレギュラー選手の疲労が蓄積したときに、守備がないDHで起用することで、負担を軽減することもできます」
▽西村徳文(にしむら・のりふみ) 1960年1月9日、宮崎県生まれ。福島高(宮崎)、鹿児島鉄道管理局を経て、81年のドラフト5位でロッテ入団。プロ通算16年で首位打者1回、盗塁王4回。97年現役引退後、ロッテでヘッドコーチなどを歴任し、2010年監督就任。1年目にリーグ3位から日本一を達成した。16年からオリックスでヘッドコーチ、19年から監督を務め、昨季限りで退団。