「阿蘭陀西鶴」朝井まかて著

公開日: 更新日:

「好色一代男」「好色五人女」などの浮世草子で知られる井原西鶴には、盲目の娘、おあいがいた。目が見えなくても、目明きと何ら変わらない。とりわけ台所仕事は人並み以上。若くして世を去った母が、幼いころから手取り足取り仕込んでくれたおかげだ。多感なおあいは、父が疎ましい。大坂俳壇で俳諧師として名を馳せる父は、手前勝手で、ええ格好しい。目立ちたがり屋で、カエルのように騒々しい。我こそ新風、異端とばかり、阿蘭陀西鶴を自称している。

 その父が、何を思ったか、草紙に手を出した。珍しく文机の前に座り通して「好色一代男」を書き上げた。ところが、旧知の板元はどこも出板を拒否。世俗の物語など俳壇の恥、俳諧師の名折れと指弾されるが、ようやく日の目を見ると、売れに売れ、ベストセラーとなった。庶民は面白い物語を欲していた。

 ほとんど知られていない西鶴の一生を今年「恋歌」で直木賞を受賞した著者が、娘おあいの繊細な感性を通して描いた長編小説。わずかな史実をもとに、人間くさく、魅力あふれる西鶴像をつくり上げた。

 日本の元祖エンタメ作家、西鶴の創作の姿勢が、現代のエンタメ作家のそれと重なる。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2
    マレーシア「ららぽーと」に地元住民がソッポ…最大の誤算は歴史遺産を甘く見たこと

    マレーシア「ららぽーと」に地元住民がソッポ…最大の誤算は歴史遺産を甘く見たこと

  3. 3
    ドジャース山本由伸いきなり「投手史上最高の465億円」は“佐々木朗希込み”の値段だったか

    ドジャース山本由伸いきなり「投手史上最高の465億円」は“佐々木朗希込み”の値段だったか

  4. 4
    まともに相撲が取れない貴景勝いまだ現役の裏に「親方株問題」 3場所連続休場で9度目カド番確定

    まともに相撲が取れない貴景勝いまだ現役の裏に「親方株問題」 3場所連続休場で9度目カド番確定

  5. 5
    阪神・岡田監督に「契約延長説」急浮上…勇退説から二転三転も、背景に夫人のサポート

    阪神・岡田監督に「契約延長説」急浮上…勇退説から二転三転も、背景に夫人のサポート

  1. 6
    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  2. 7
    鹿児島・山形屋は経営破綻、宮崎・シーガイアが転売…南九州を襲った2つの衝撃

    鹿児島・山形屋は経営破綻、宮崎・シーガイアが転売…南九州を襲った2つの衝撃

  3. 8
    一人横綱・照ノ富士が満身創痍でも引退できない複雑事情…両膝と腰に爆弾抱え、糖尿病まで

    一人横綱・照ノ富士が満身創痍でも引退できない複雑事情…両膝と腰に爆弾抱え、糖尿病まで

  4. 9
    「飲みィのやりィのやりまくり…」高市早苗氏がブチまけていた“肉食自伝”の衝撃!

    「飲みィのやりィのやりまくり…」高市早苗氏がブチまけていた“肉食自伝”の衝撃!

  5. 10
    野茂英雄氏と借金トラブル 元1億円投手の佐野慈紀さんは今

    野茂英雄氏と借金トラブル 元1億円投手の佐野慈紀さんは今