「イスラーム国の衝撃」池内恵著
いま最も注目株の中東地域研究者によるタイムリーな概説。2011年の「アラブの春」がもたらしたのは中東各国の統治体制の揺らぎと弱体化。そこに乗じて台頭したのがイスラム国だ。指導者のアル・バグダディは「カリフ」(最高指導者)を名乗る。これは全世界のイスラム教徒(ムスリム)の指導者を主張したことと同じ。各国のイスラム学者(ウラマー)はこれを認めないが、バグダディは独自の学識とカリスマで相当な説得力を発揮していると著者はいう。
米国に追い詰められたアルカイダがアフガン・パキスタン国境を拠点に勢力を回復し、まるでフランチャイズ網のように自発的な賛同のネットワークが出現するなどの新状況が生じたことが、背景にある。アルカイダと違ってシリアとイラクで領域支配に成功したイスラム国は、いわばアルカイダの「別ブランド」化のように登場したのだ。
さらに欧米諸国ではアルカイダやイスラム国に刺激された若者たちが「勝手にアルカイダ」的に単独テロを起こす事件が続発。こうして一匹オオカミ的なテロをも含む「グローバル・ジハード」に至ったのだと説く。