佐高信「この5冊で政治の危うさが見えてくる」
■「天人」後藤正治著
たとえば猪瀬直樹や沢木耕太郎のように三島由紀夫にひかれる人間は私の肌に合わない。それは「朝日新聞」のコラム「天声人語」(略して「天人」)の筆者として知られる深代惇郎も同じだったようで、1970年11月25日に三島が市谷の自衛隊駐屯地に乗り込んで割腹自殺した時、翌日の社説にこう書いた。
「彼の政治哲学には、天皇や貴族はあっても、民衆はいない。彼の暴力是認には、民主主義の理念とは到底あいいれぬごう慢な精神がある。民衆は、彼の自己顕示欲のための小道具ではない」
骨の髄からのリベラリストである深代にとって、民衆の生活をバカにしたような三島のエリート意識は許し難いものだったのだろう。
保守と反動、あるいは保守と右翼は違う。「朝日」の主筆だった若宮は、丹念に知恵ある保守の系譜をたどる。
「バカな大将、敵より怖い」と、見識ある経営者が喝破した。これは現在のこの国の首相を指して言ったのではないが、まさに安倍晋三にこそピッタリ当てはまる指摘である。