「変わらないために変わり続ける」福岡伸一著
駆け出しの研究者だった25年前、一時雇われの身として滞在したロックフェラー大学。寝食を忘れて研究に没頭した思い出のキャンパスに、著者は2013年から2年間、客員教授として舞い戻った。何の変化もないかのように見えた青春の舞台にはかつての教授や遺伝子解読法の姿はなく、今や世界最先端の生命科学研究の場となっていた。
本書は、古巣に戻った著者が見て感じて体験した、NYの絶え間ないダイナミズムと文化、さらに生命科学研究の今をつづったエッセー集だ。
NYの今と昔、異国で感じる日本語への渇望、食文化差の理科的な考察、マンハッタンでの自然観察、生命科学史から見たウイルスという存在の不思議さやSTAP細胞問題の闇など、読みごたえのあるトピックが並ぶ。定説とされていたものが覆って新たな知見が定評を得ていく研究の世界と同様、決して停滞せずに生き物のように変化していく街を闊歩する著者の楽しそうな様子が伝わってくる。
(文藝春秋 1300円+税)