「家族という病」下重暁子氏
穏やかならぬタイトルである。
「多くの人が、家族は絆で結ばれていると信じているけれど、それは幻想でしかありません。親子でも夫婦でも、相手がどんな価値観を持っているか本当に分かっている人は少ないからです。なのに、一緒に暮らしているからお互いをよく知っている、愛し合っていると思い込んでしまう。それが大小さまざまな問題を引き起こし、また生きにくくしているんですね。私の目には、多くの人が家族関係や理想にとらわれ、身動きできなくなっているように見えます」
家族にとらわれることの問題のひとつは、個性が没することだという。他人なら知るために努力し、考え方の違いを認めようとするが、こと家族間になると、相手も自分も「父」や「息子」などの役割に当てはめ、個人のありようを見ようとしなくなる。独り立ちできない子ども、また殺人事件は親子間が最も多いという現状には、「分かっているはず」や「親なんだから」という甘えや期待があると著者は指摘する。さらに、個性の封じ込めは“幸福な仲良し家族像”の偽装につながり、結果、どんどん排他的になっていくとも。