「ものと人間の文化史172 酒」吉田元著
人間が「もの」との関わりを通じて築いてきた暮らしの足跡をたどりながら、文明の基礎を問い直す「ものと人間の文化史」シリーズ第172弾。酒がテーマの本書は、古代の酒の誕生から近世までの人と酒の関わりを、素材による酒の違いや醸造法などの技術面はもちろん、信仰と酒の関わり、文献に登場した酒にも言及。さらには戦国の世から江戸の世、凶作や飢饉の世など世情の移り変わりに伴う酒の扱いの変化、酒の器の変遷にも踏み込んだ酒の文化的側面も解説している。
具体的には、宮中行事で用いる酒や酢などの醸造食品を造っていた造酒司(みきのつかさ)の酒については、「令集解(りょうのしゅうげ)」「延喜式(えんぎしき)」などの史料から酒の種類ごとにその原料の配合や製成量を割り出しているほか、発掘調査により長岡京に商業的規模の醸造施設があったことが明らかにされていることを紹介。人々を魅了し続けてきた酒の歴史を垣間見せてくれる。
(法政大学出版局 2500円+税)