「ありがとよ築地 魚河岸と生きた四十年」芝山孝著
毎朝、午前1時に目を覚ます。ご飯とみそ汁の朝食を済ませ、2時には家を出る。
外気の温度を感じながら、生きていることを実感する。今日もまた築地で働くことができる。著者は、築地の仲卸の老舗「芝専」に生まれ、40年間、魚を売って生きてきた人物。中央卸売市場の豊洲移転を来年に控え、肌で知っている「築地の世界」を書き記した。
生まれも育ちも門前仲町。4人きょうだいの末っ子だから、家業に入るつもりはなかった。ところが、就職も内定した大学4年のとき、祖父に言われた。「おまえも河岸に出ろ」。そして頭まで下げた。
祖父は13歳で魚市場の丁稚奉公に入り、身を粉にして働いて自分の店を持った苦労人。尊敬する祖父の言葉に心が動き、銀行マンになるはずが、築地で生きることになった。
修業の日々が始まった。せり人の言葉も、手やりもわからない。店の先輩やお客さんに教えてもらいながら、仕事を覚えていった。ところが、せりにも客あしらいにも慣れてきたころ、芝専をクビになってしまう。叔父の仕事ぶりに反発し、いがみあった末の喧嘩両成敗。一本気で生意気盛りだった。