「真珠のボタン」が意味する歴史の悲劇
何の予備知識もないまま映画館に入って、場内の明かりが消えたとたん、ふと予感にみちた胸の高鳴りを覚えることがある。
そんな忘れてひさしい歓喜をいま味わわせてくれるのが、現在都内で2本立て公開中のドキュメンタリー作品「光のノスタルジア」と「真珠のボタン」だ。
南米チリのアンデス山麓にあるアタカマ砂漠は世界中の天文学者に仰がれる天体観測の聖地。その神秘的な眺めから始まる「光――」は、まるで自然科学の記録映画のよう。
他方「真珠――」も西パタゴニアの美しい海景から始まり、流麗な水の流れに目がうるおうのを覚える。
ところが両作品ともなめらかな語り口に導かれるまま、ふと気づくと話はかつての悪名高いピノチェト独裁政権による虐殺と弾圧の故事になり、また先住民制圧の暴力的な歴史が描かれるのだ。
なにしろアタカマ砂漠の砂の中から発掘される奇妙な物体の正体に気づいたときの息をのむ衝撃といったら――! 「真珠のボタン」という言葉が意味する歴史の悲劇すら、深くて重い美しさをたたえているのだ。