「SURI COLLECTION」ヨシダナギ著
アフリカのへき地に住む 世界一ファッショナブルな民族
「世界一、ファッショナブルな民族」といわれるエチオピアの少数民族スリ族を撮影した写真集。
何の予備知識もなくページを開いた読者は、おとぎの国にでも迷い込んでしまったかのような錯覚を覚えることだろう。マスクをかぶったようなフェースペインティングに、褐色の体をキャンバスにした色鮮やかなボディーペインティング、そして見たこともない花や枝、実などの自然素材をふんだんに使ったリースやクラウンの装飾を身に着けたそのファッションは、現代の最先端に見えるとともに、豊かな自然の風景にも見事に溶け込み、彼らはまるで森にすむ妖精かのようだ。
5歳のときにテレビで見たマサイの戦士の姿にくぎ付けになり、大きくなったら「アフリカ人になる」と心に決めたという著者。しかし、10歳になっても肌の色が変わらないことに疑問を抱き、母親に真実を教えられ夢を砕かれる。
以来、いつか「憧れの彼らに会いたい」と方針転換して、2009年、ついにアフリカの土を踏む。本物のアフリカ人は思い描いていた通りにカッコよく、彼らのカッコよさを伝えようとカメラを手にした著者は、エチオピアのムルシ族、マリのドゴン族、カメルーンのコマ族などさまざまな少数民族を撮影。彼らと心を通わせるために、自ら全身に赤土を塗り、パンツ代わりに葉っぱを身に着け、友人、家族として受け入れられていったという。
そんな中、エチオピア南西部に暮らすスリ族の存在を知り、居ても立ってもいられなくなり、現地に向かう。彼らが住むエリアは、首都アディスアベバから車で片道3日間も悪路を走った場所にある。しかし、1回目の訪問は、うまくコミュニケーションがとれず不首尾に終わり、納得できない著者は準備を整え再渡航して、ようやく思い描いた通りの写真が撮影できたそうだ。
実は、このファッションは、結婚式や満月の夜のダンスパーティー用のもの。彼女の意図を理解して特別に着飾ることに承諾してくれた彼らは、山から持ってきた石灰石や赤土を水に溶かし、メークをはじめ、水玉を描き込んだり、植物を使ってスタンプ代わりに押してみたり。そして手の届かないところは友人同士で補い、思い思いの草花を集めて体や顔、頭に巻き付け、あっという間におとぎの世界が出現した。
著者はスリ族のファッションは「感情表現」に近いと感じたという。人からどう見られるかではなく、ファッションで自分の心を表現しているのだ。何よりも、その澄んだ瞳が最高の宝飾品のように彼ら彼女たちの装いを際立たせている。(いろは出版 3400円+税)