「世界の愛らしい子ども民族衣装」国際服飾学会監修
世界を見渡しても、民族衣装を着る習慣は薄れつつあるが、祭りや行事など、ハレの日にはやはり欠かせない。本書は、民族衣装を身に着けた世界中の子どもたちを集めた写真集。
穴が開いた巨大な石形貨幣「フェ」の前に立つミクロネシア・ヤップ島の子どもが着ている腰巻き衣には、ココヤシの葉を細かく裂いて染色したものが用いられる。オセアニアでは、地域によって織物も織られてきたが、このように草木の葉や茎をそのまま用いたものや、樹皮をたたきのばした樹皮布「タパクロス」など、織物以前の衣服素材が使われている。
次のページでは全身を鮮やかな色彩のベールで包んだアフリカ・マリのトゥアレグ族の少女がほほ笑んでいる。砂漠の遊牧民であるトゥアレグ族は、イスラム教を信仰しているが、一般の教徒とは反対に、男性が顔を隠し、女性は顔を隠さないのだそうだ。
衣装もさることながら髪形に度肝を抜かれるのが、中国のミャオ族の少女たちだ。水牛の頭を思い出させるような巨大な髪形は、戦死した英雄をしのぶ気持ちを表すために葬儀で武器だった弩を髪にさしたことから始まったという。実はミャオ族には60以上のグループがあり、それぞれ衣装、髪形、装飾が異なるといい、豪華な銀製の頭飾りやビーズで飾られた笠をかぶった別のミャオ族の少女も紹介されている。
トルコのモスクの前に立つ3人兄弟が着ている割礼の儀式のための白い晴れ着「スンネットリッキ」のような豪華絢爛の衣装と対照的に、アフリカ・ナミビアのヒンバ族の少女たちが着ているのは腰巻きだけとシンプルだが、鉄ビーズをふんだんに使ったアクセサリーと独特の髪形が目を引く。ヒンバ族の女性たちは、その髪形や装身具が未婚・既婚や子どもの人数などを表しているという。
ジンバブエの「マキシ」=死者を表現する衣装と仮面をかぶった伝統的なダンスの踊り手や、19世紀初頭に滅んだキャンディ王国の衣装を着たスリランカの少年など、多くは祭りや行事の際の晴れ姿なのだが、中にはアザラシやトナカイの毛皮で作った服で全身を包んだカナダのイヌイットや、アラブの伝統的な衣装である「トーブ」と呼ばれる長袖の長い丈の服と保護用のかぶり物を身に着けたUAEの少年など、民族衣装が今も普段着な子どもたちもいる。
世界88カ国の民族衣装131点を収録。子どもたちの姿から、その国の大人たちが、それぞれの民族衣装に誇りを持ち、大切にしていることが伝わってくる。民族衣装はその国のかけがえのない文化である。ゆえに、民族衣装がその国の子どもたちの可愛らしさを引き出し、よく似合っている。(エクスナレッジ 1800円+税)