ネットを炎上させているのはたった1.5%という客観的調査
「ネット炎上の研究」田中辰雄・山口真一 勁草書房(2200円+税)
ネットの「炎上」はもはや日常的過ぎた感はあるものの、この現象については、「暇な人が憂さ晴らしをしている」といった、あくまでも推論の域を出ない形で、炎上させる人の人物像は語られてきた。また、「炎上させる人の人数はどれくらい?」と聞かれた場合は「そんなに多くはないのでは」と答えられてきた。実際、熊本地震の時、モデル・平子理沙が被災地を 慮るようなことをブログに書いたところ、なぜか批判コメントが多数書かれた。ただし、表示される名前を同一IPアドレスから書いてきた者が6人いて、そのうちの1人は「自殺しろ」と100回以上も書いたのだという。
強い恨みを持つ者、とにかく強烈なアンチが執念深く炎上を仕掛けてくることは分かっていたのだが、本書は大学の研究者が「炎上」をテーマに綿密な調査データを基に書き、説得力のある形に仕上げたものだ。また、解決策や子供たちへの教育をどうすべきかというところまで提案を行っている。
1万9992人を対象とした調査によると、「90%以上の人が、炎上に参加したことはないものの炎上という存在は知っているという状態であることが分かる」とのこと。そして、こう続く。
〈このように、炎上が広く知られている一方で、実際に炎上に参加したことのある、「1度書き込んだことがある」「2度以上書き込んだことがある」人は、わずか1・5%しかいないことが確認される(中略)逆に言えば、この1・5%の人が過激な誹謗中傷を取り止めれば、これほど企業のマーケティングや利益、人の生活や心理状態に影響を与えている炎上もなくなるといえる〉
このように筆者は炎上の問題は認識しつつも、情報発信をする場合に規制をかけることには反対である。さらにはどうすれば炎上しにくい場を作れるか、という前向きな課題解決への考察を深めており、「一部の無法者」の大暴れに諦め、さらにはネット上が荒くれ者のどうしようもない巣窟であるという諦観には与さない姿勢を貫いている。
私自身はもう10年以上ネットニュースの世界に身を置いているが、バカの大暴れを止めることは難しく、あまりにも酷い中傷をする者は逮捕してみせしめにするのが最も手っ取り早いと突き放した姿勢を取ってきたが、こうした真摯に研究をする専門家の姿勢には感服することしきりである。★★★(選者・中川淳一郎)