元やくざ・俳優の安藤昇の回想録
「ヤクザのカリスマ」鈴木智彦著(ミリオン出版 1000円+税)
〈やっと上がってきたと思ったらパッと拳銃を構えやがって、「神妙にしろ」。ふざけるなっていうんだ。こっちはさっきから神妙にしているじゃねえか(笑)〉
元やくざ・俳優・作家の安藤昇の回想である。
本書はタイトル通り、戦後の大物やくざの一生と肉声を扱った熱い中身になっている。なかでも熱いのが昨年暮れ、亡くなった安藤昇だろう。
組長という呼称は禁止、配下は社長と呼び、スーツにネクタイ着用、指詰め、入れ墨は厳禁、それまでのやくざとは異なる新手のアウトロー集団安藤組を結成した。
本書では、実業家で乗っ取り王の異名をもつ横井英樹を安藤昇の配下が銃撃した有名な襲撃事件の舞台裏を安藤自身が回想する。
借りた金を返そうともしない横井は、「金を返さない方法はいくらでもある」と安藤にうそぶく。一代でのし上がった横井英樹は腹の据わった強欲な実業家だった。
私も横井の生前、強欲伝説を聞いたことがある。横井英樹関連の内装業をやったものの、なかなか代金を払ってくれず、何度も要求したところ、やっと払ってもらったという工事主がいた。
「払ってくれたのはいいけど、麻袋に1円玉詰め込んできました(苦笑)」
メンツを潰された安藤昇は銃撃という報復にいたる。冒頭は、指名手配された安藤が刑事たちに逮捕される瞬間である。
出所して組を解散した安藤は俳優として復活、ときにはプロデューサーとして映画にかかわる。「やくざ残酷秘録 片腕切断」(東映・1976年)では、企画・ナレーションを担当、やくざの指を詰めたり、腕が切断される衝撃的なシーンが出てくるのだが――。
〈腕の切断はやらせ〉であり、〈指を詰めるシーンは本物〉であった。
伝説のアウトローに肉薄する、体当たり主義の著者にしか書けない新作である。