「五〇年酒場へ行こう」大竹聡氏
呑み歩きの達人との異名を持つ著者である。さぞや酒にも酒場にも精通していると思いきや、軽快に裏切られた。
「僕、酒の蘊蓄がないんですよ。興味がないから覚えないし。有名な酒場を訪ねる趣味も本来は持っていません。でも今回は、50年続く酒場の歴史や、そこのあるじの人生を書きたかった。僕は今年53歳で、そこに呼応する部分があるんじゃないかと思ったのです。自分の親の年代の人がねじり鉢巻きで店を守っている光景が、心に染みてくる年になったんでしょうね」
始まりは「新潮45」の連載だ。約3年かけて、34軒の老舗酒場を大酒呑み編集者とともに呑み歩いた。豚のカシラの味噌だれが人気の「大松屋」(東松山)を皮切りに、レモンサワー発祥の店「ばん」(祐天寺)、絶品アンコウ鍋の「丸志げ」(浦安)と名店へ足を運ぶ。
しかし、訪れる著者の視点は常に新参者。決して食通ぶらず、淡々と酒場の雰囲気を描写する。そして呑む。とにかく呑む。
「もうね、呑みたくてしょうがないんです。話はそこそこで切り上げちゃってね。取材に行ってるんだか、呑みに行ってるんだかわからない(笑い)」