石原壮一郎
著者のコラム一覧
石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。著書「大人養成講座」「大人力検定」などで、日本の大人シーンを牽引している。最新刊「大人の言葉の選び方」も好評!

「当たり前のお店」の魅力が倍増

公開日: 更新日:

「東京実用食堂」鈴木隆祐著(日本文芸社 1300円+税)

 街の食堂で食べる定食は、なぜあんなにおいしくて愛おしいのか。立ち食いの店でうどんをすすると、なぜあんなに幸せな気持ちに包まれるのか。昭和なビルや地下街は、なぜあんなにワクワクするのか。

 私たちのお腹と心を日常的に満たしてくれているのは、身近に存在している「当たり前のお店」です。そして、それぞれの「当たり前」には、それぞれのドラマや歴史や個性があります。

 この本では、東京の外食を「実用」という視点から腑分け。多種多様な「実用食堂」が怒濤の勢いで登場します。読むほどにヨダレがあふれてくる名物メニューの紹介はもちろん、お店の人とのやりとりや町の様子の描写からも、「実用食堂」の魅力や存在意義を感じずにはいられません。

 著者の鈴木隆祐は、教育やビジネスに関する著書を多数出版しているジャーナリスト。食べ歩きはライフワークで、これまでにも、B級グルメや街場中華をテーマにした本を書いています。

 ここ数年、昭和生まれの東京の食堂がバタバタと倒れていることに危機感を抱いたことも、「実用食堂」をテーマにした理由のひとつだとか。

 日曜日の夕方、街場中華の店に並んでいるとき、5歳くらいの男の子にお父さんが語りかけていた言葉を一生忘れないと、著者は言います。

「うん、確かに混んでるね。でも、それはおいしいからなんだよ。なぁ、楽しみだね」

 外食は、そして人生は、なんてすてきなんだと思わせてくれるひと言です。

 本に登場するお店に食べに行ってみるのも、きっと楽しいでしょう。読み進むうちに、近所やよく知っているエリアに「えっ、こんなお店があるんだ!」と驚かされるのも、この本の醍醐味。日常の風景を見直すきっかけになったり、街や店の新しい見方、楽しみ方のヒントを与えてもらえたり、いろんな意味で、とても実用的な一冊です。

【連載】イカした中年を養成する大人の必読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    愛川ゆず季が告白「長男の自閉症を隠していたわけじゃない。でも言葉にすごくパンチがあって…」

    愛川ゆず季が告白「長男の自閉症を隠していたわけじゃない。でも言葉にすごくパンチがあって…」

  2. 2
    西武激震!「松井監督休養、渡辺GM現場復帰」の舞台裏 開幕前から両者には“亀裂”が生じていた

    西武激震!「松井監督休養、渡辺GM現場復帰」の舞台裏 開幕前から両者には“亀裂”が生じていた

  3. 3
    中居正広「脱SMAP」成功の裏に“懐刀芸人”あり 自身が仕切る番組の「裏回し」任せ巧みに延命

    中居正広「脱SMAP」成功の裏に“懐刀芸人”あり 自身が仕切る番組の「裏回し」任せ巧みに延命

  4. 4
    愛川ゆず季が2歳で長男の自閉スペクトラム症を確信した“逆さバイバイ” ネット検索で不安のループに…

    愛川ゆず季が2歳で長男の自閉スペクトラム症を確信した“逆さバイバイ” ネット検索で不安のループに…

  5. 5
    元横綱・白鵬に「伊勢ケ浜部屋移籍案」急浮上で心配な横綱・照ノ富士との壮絶因縁

    元横綱・白鵬に「伊勢ケ浜部屋移籍案」急浮上で心配な横綱・照ノ富士との壮絶因縁

  1. 6
    1場所4人じゃ終わらない…元横綱白鵬の旧宮城野部屋勢“廃業ラッシュ”はこれからだ

    1場所4人じゃ終わらない…元横綱白鵬の旧宮城野部屋勢“廃業ラッシュ”はこれからだ

  2. 7
    石原裕次郎(13)慶応病院に入院…同乗したエレベーターを降りる際に掛けられた言葉

    石原裕次郎(13)慶応病院に入院…同乗したエレベーターを降りる際に掛けられた言葉会員限定記事

  3. 8
    松井稼頭央監督とは対照的…西武“連勝”渡辺監督代行が見せた「芯ある采配」

    松井稼頭央監督とは対照的…西武“連勝”渡辺監督代行が見せた「芯ある采配」

  4. 9
    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  5. 10
    “超ハイスペ外国人芸人”アイクぬわら 共演未成年少女「自宅連れ込み」で芸能界から退場か

    “超ハイスペ外国人芸人”アイクぬわら 共演未成年少女「自宅連れ込み」で芸能界から退場か