「曲亭の家」西條奈加著

公開日: 更新日:

 江戸一番の売れっ子戯作者、曲亭馬琴の息子・宗伯に嫁いだお路。見合いのとき、真面目そうだと好感を持ったものの、嫁いで半月もせぬうちに家を飛び出してしまう。夫・宗伯は医者ながら体が弱くかんしゃく持ちで、しゅうとは万事に厳しく女中も居着かない。似た者父子に対し、さまざまに我慢を重ねていたが、ある騒動を機にお路は我慢の糸がプツリと切れたのだ。

 馬琴が倒れたことで否応なく婚家に戻ったが、これを境に宗伯とお路の立場は逆転。黙って夫にかしずくことはせず、家中の采配を振るっていく。やがてお路は2人の子を授かるが、馬琴の傲岸と、宗伯としゅうとめのわがままで気の休まる間がない。そんな中、馬琴の右目が見えなくなる……。

 第164回直木賞を受賞した著者による受賞後初の書きおろし長編。人気戯曲者の面倒くさい家族の中で奮闘するお路を主人公に、その半生を描く。時には「馬琴なんてくそくらえ」と心で叫び、「どうしてこんな家に嫁いだのか」と嘆きながらも、日々の中に小さな幸せを見つけていく姿が頼もしい。

 夫の死後も婚家に残り、馬琴の「里見八犬伝」の代筆を務め、嫁にして馬琴の唯一無二の弟子と称されたお路の、我慢だけで終わらなかった姿があっぱれだ。

(角川春樹事務所 1760円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2
    マレーシア「ららぽーと」に地元住民がソッポ…最大の誤算は歴史遺産を甘く見たこと

    マレーシア「ららぽーと」に地元住民がソッポ…最大の誤算は歴史遺産を甘く見たこと

  3. 3
    ドジャース山本由伸いきなり「投手史上最高の465億円」は“佐々木朗希込み”の値段だったか

    ドジャース山本由伸いきなり「投手史上最高の465億円」は“佐々木朗希込み”の値段だったか

  4. 4
    まともに相撲が取れない貴景勝いまだ現役の裏に「親方株問題」 3場所連続休場で9度目カド番確定

    まともに相撲が取れない貴景勝いまだ現役の裏に「親方株問題」 3場所連続休場で9度目カド番確定

  5. 5
    阪神・岡田監督に「契約延長説」急浮上…勇退説から二転三転も、背景に夫人のサポート

    阪神・岡田監督に「契約延長説」急浮上…勇退説から二転三転も、背景に夫人のサポート

  1. 6
    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  2. 7
    鹿児島・山形屋は経営破綻、宮崎・シーガイアが転売…南九州を襲った2つの衝撃

    鹿児島・山形屋は経営破綻、宮崎・シーガイアが転売…南九州を襲った2つの衝撃

  3. 8
    一人横綱・照ノ富士が満身創痍でも引退できない複雑事情…両膝と腰に爆弾抱え、糖尿病まで

    一人横綱・照ノ富士が満身創痍でも引退できない複雑事情…両膝と腰に爆弾抱え、糖尿病まで

  4. 9
    「飲みィのやりィのやりまくり…」高市早苗氏がブチまけていた“肉食自伝”の衝撃!

    「飲みィのやりィのやりまくり…」高市早苗氏がブチまけていた“肉食自伝”の衝撃!

  5. 10
    野茂英雄氏と借金トラブル 元1億円投手の佐野慈紀さんは今

    野茂英雄氏と借金トラブル 元1億円投手の佐野慈紀さんは今