「デンデケ・アンコール」芦原すなお氏

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 往年のバンド少年たちなら本書のタイトルに「お!」と反応したのではないだろうか。かつて大林宣彦監督によって映画化もされた青春バンド小説「青春デンデケデケデケ」の30年ぶりの続編である。

 デンデケデケデケ~~! は、ご存じ、ベンチャーズの<パイプライン>だ。

「前作は、ぼくと同年齢の主人公が高校3年生になった1968年で物語が終わっているんです。だけどぼく自身は、それ以降も結構な数の歌を書いたし、今に至るまで常にロックはそばにありました。ロックは50年代に生まれ、60年代にビートルズやストーンズ、70年代前半にはイーグルスなど、この黄金の20年間に現在も色あせない名曲の数々が生まれたんですね。なのに、ぼくはそのことを書いていない。あるとき、ぼくの心が、芦原すなおよ、『デンデケ』で終わらせてよいのか、と。こうしてずっとの宿題にようやく手を付けた、というわけです」

 物語の幕開けは1968年の東京。高校時代、ロックに目覚めた四国の少年・藤原竹良ことちっくんは大学生になり、ますますロック熱を上げていた。スーパースターになりたい。プロのシンガー・ソングライターになりたい。しかしコンテストには落選、さらにあるバンドの誕生を目の当たりにしたことで、ちっくんの挫折は決定的なものとなった。

「今作では自分の体験を随分と投入していて、ロックで生きていこうとチャレンジしたのも事実。そして矢沢永吉さんのキャロルに打ちのめされたのも本当です。はじめてテレビでみたときに、ありゃーと思いましたね。ハンブルク時代のビートルズってこんな感じだったんだろうなと思わせる、圧倒的なエネルギーがあった。ぼくは文学に興味が向いていた時期でもあって、あとは任せたよ、と身を引いたんです(笑い)。音楽が嫌いになったわけじゃないけど、ロックとぼくの心の間に薄い膜ができたような、『ロックの外に出てしまった』ようでした」

 やがて大学の同級生の村上春樹氏が「風の歌を聴け」で新人賞を受賞。小説を書き始めていた著者にとってそれが奮起の材となり、「青春デンデケ──」誕生へとつながったという。

 30代になったちっくんも、物語の中で小説家として活動を開始。ロックとはつかず離れずだったが、40歳のある日、質流れ品のグレコのギターと出合ったことで運命が大きく動いていく。久しぶりに弾いた<パイプライン>で、25年前と同じようにつむじから爪先に電流が流れたのだった。

 一度動き出した運命はとどまるところを知らない。ふらりと入ったバーでこれまた1人の男と運命の出会いをし、バンドが結成されていく。出会って間もないオジサン2人がギター片手にロックのイントロクイズで盛り上がるさまなどは、まるで高校生。なんともほほ笑ましいシーンだ。

「ぼくは今、東京と故郷との2つでロックバンドをやっているんですが、若い頃はロックは若者の音楽で、まさか還暦過ぎても夢中でいるとは思ってもいませんでした。若い頃のロックは神経にガツンと直接作用して、しびれるなぁって感じで、今はテクニカル的な凄さや奥深さを味わうという違いはあるけれど、ロックの魅力って、自分が生きていることを生々しく感じさせてくれる体験なんですよ。こんな種の芸術は他にはないと思う。それにね、ぼくより年上のストーンズが全米ツアーをしているんだから、ぼくだってやめるわけにはいかないよね」

 挿入されるバンド仲間の青春話などもユーモラス。と同時に、ちっくんを通して語られるさまざまなバンドの軌跡はロック史そのもので、貴重な史料ともなりそうだ。

「音楽を続けてきてよかった。いとしい歌の数々がぼくを守ってくれたんだなと思っています。特にメンタル的には随分と助けられましたからね。ロックがなければ索漠とした人生だったでしょうね。ノーロック、ノーライフですよ(笑い)」

(作品社 2970円)

▽あしはら・すなお 1949年、香川県生まれ。早稲田大学文学部卒。90年、「青春デンデケデケデケ」で第27回文藝賞、91年、同作品で第105回直木賞受賞。著書に「山桃寺まえみち」「ミミズクとオリーブ」「ユングフラウ」ほか多数。

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