金井真紀
著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「頭じゃロシアはわからない」小林和男著

公開日: 更新日:

「頭じゃロシアはわからない」小林和男著

 友人からもらったマトリョーシカ柄のTシャツ。添えられたロシア語、その端正なキリル文字のたたずまいが好きだ。でもそれを虚心坦懐に着られなくなって1年半が経つ。破壊されたウクライナの街や、戦闘に巻き込まれた市民の姿が脳裏をよぎる。今このシャツを着て東京を歩いたら誰かを傷つけるだろうか。引かれるだろうか。と考えて「いや」と思い直す。いや、ロシア語に罪はない。ロシア語話者の中にはウクライナをはじめとする旧ソ連地域の人も、ロシアからの移民や難民も、モスクワの反戦活動家もいるのだから。そう自分に言い聞かせて、わたしはマトリョーシカTシャツに袖を通し続けている。

 そしてもちろん、ことわざにも罪はない。このタイミングでロシア本かとやっぱり少しひるみつつ、世界のことわざが好きなわたしは素通りできずに本書を手に取った。

 著者は元NHK特派員で初めてのモスクワ赴任は1970年! ことわざを紹介しながら語られる取材秘話の厚みがすごい。ゴルバチョフや伝説のバレリーナ、プリセツカヤも登場するし、ウクライナ侵攻後の国民の本音を示すエピソードも。

「愛はジャガイモじゃないから窓から捨てられない」「良い言葉は猫にも気持ちよい」「仕事は終わった勇敢に休め」……いいことわざだなぁ。その国に生きる人たちを思う。乾杯したら飲み干して杯の底を相手に見せるのが作法とか、手元のメモを見ながらスピーチするのはダサいとか、本書を読めばロシア人とつきあうコツも学べる。そうだよ、楽しくつきあいたいのに。なんてことをしてくれたんだ、いい加減にしろプーチン。

(大修館書店 2420円)

【連載】金井真紀の本でフムフム…世界旅

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    日本ハム快進撃の原動力は新庄監督以上にフロント! 育成中心のドラフト戦略ようやく結実

    日本ハム快進撃の原動力は新庄監督以上にフロント! 育成中心のドラフト戦略ようやく結実

  2. 2
    小池都知事3選の“不安材料”は田母神俊雄氏の出馬と維新の出方…最悪「100万票」がパーに?

    小池都知事3選の“不安材料”は田母神俊雄氏の出馬と維新の出方…最悪「100万票」がパーに?

  3. 3
    小池都知事の“エジプトの父”が政府系新聞に明かした「14歳の彼女を養女にした」の真意

    小池都知事の“エジプトの父”が政府系新聞に明かした「14歳の彼女を養女にした」の真意

  4. 4
    マイナンバー「1兆円利権」山分け 制度設計7社と天下り官僚

    マイナンバー「1兆円利権」山分け 制度設計7社と天下り官僚会員限定記事

  5. 5
    貧打に喘ぐ阿部巨人…評論家・秦真司氏が危惧する「坂本勇人の衰えと過度な主力依存」

    貧打に喘ぐ阿部巨人…評論家・秦真司氏が危惧する「坂本勇人の衰えと過度な主力依存」

  1. 6
    二宮和也は視界良好!「ブラックペアン」続編が「アンチヒーロー」超えのヒットになりそうな“根拠”

    二宮和也は視界良好!「ブラックペアン」続編が「アンチヒーロー」超えのヒットになりそうな“根拠”

  2. 7
    元衆院議員・若狭勝氏は女帝と断絶して7年「今は本当に幸せ」

    元衆院議員・若狭勝氏は女帝と断絶して7年「今は本当に幸せ」

  3. 8
    維新・馬場代表に飛び交う“入閣密約”説…規正法改革法案で自民にスリ寄り「賛成」

    維新・馬場代表に飛び交う“入閣密約”説…規正法改革法案で自民にスリ寄り「賛成」

  4. 9
    日本ハムが球宴ファン投票で9部門独占中!躍進支える首脳陣も新庄“勘ピューター”にビックリ

    日本ハムが球宴ファン投票で9部門独占中!躍進支える首脳陣も新庄“勘ピューター”にビックリ

  5. 10
    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況