<第1回>露木茂氏 「かつては圧力を局全体でハネのけた」
本番の前にはもちろん、僕、スタッフ、それに番組責任者も含めて編集会議を開き、どのニュースをどんな順番で取り上げるかを綿密に決めていきます。もちろん、僕のコメント内容も。そこで僕が曖昧な発言をすると、責任者から「そこはもっと厳しく」とか、逆にあまり突っ込み過ぎると「もうちょっと別の表現で」といった注文がつく。こうして、本番に入っていくので、放送後、仮に僕のコメントに問題があったとしても、それは番組全体の責任です。当時の上層部には「外部からのキャスターへの圧力は局全体ではねのける」という、テレビ人としての姿勢があったと思うんです。ところが今はキャスター個人の発言として問題視されることが多くなった。キャスターの個性に依存し過ぎているのかもしれません。
権力と緊張関係という意味で例を挙げるとすれば、1972年に起きた「浅間山荘事件」でのこと。人質を取って山荘に立てこもる犯人グループに対して、外部の情報をあまり与えたくないということで、警察庁で当時、現場の指揮を執った佐々淳行さんから「テレビ・ラジオの方には配慮をお願いしたい」という申し入れがありました。犯人が聞いている可能性があるからです。しかし、いざ警官隊が「突入」となったとき、正面からは鉄球や放水などで攻め立てる一方で、犯人グループに気取られぬように山荘の裏側にも機動隊が近づいていっている。こうした事実を確認した以上、我々は目の前で起きている事態を伝えないわけにはいかない。ギリギリの判断の上、我々は事実を映像で伝えました。ひょっとして犯人側がテレビを見ていれば、何か対応するかもしれないとも思いました。