3つの血継いだサラブレッド 尾上右近が自主公演で真骨頂
天皇ほど厳格ではないが、歌舞伎役者も「男系男子」が継ぐのが原則で、「女系の男子」は少ない。尾上右近(24)は、その数少ない「女系の男子」のひとりで、大正から昭和前半にかけての名優・六代目尾上菊五郎の女系のひ孫(娘の孫)にあたる。さらに右近の母は映画スター鶴田浩二の娘なのだ。菊五郎家からみても、鶴田浩二家からみても、「女系の男子」となる。父は清元の家元、七代目清元延寿太夫と、これまた名門だ。
役者をほめるのに、「声よし、顔よし、姿よし」という言葉があるが、右近は菊五郎・延寿太夫・鶴田浩二の3つの血を継いで、その全てを備えている。だが「歌舞伎役者の子」ではないというハンディがあり、これまでは知る人ぞ知る存在だった。
右近はこの状況を打破するため、昨年から「研の會」と名付けた自主公演を始め、今年も8月6日と7日に国立劇場小劇場を借りて開催された。自主公演とはその名の通り、役者が自腹を切って劇場を借り、役者やスタッフを雇って(無償で協力してくれる人もいる)上演するものだ。2日間だけだが、大道具も小道具も音楽も普段の歌舞伎上演と同水準のものを用意し、台本も省略なしに上演する。歌舞伎座は25日間の興行なので、舞台はどうしてもルーティンワーク化するが、数日だけの自主公演は、まさに人生をかけての大芝居なので、気迫にみなぎり、見応えがある。