北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「誰がために鐘を鳴らす」山本幸久著

公開日: 更新日:

 青春小説である。しかも主人公は高校3年の錫之助。山本幸久の愛読者なら、おやっと思うだろう。「いつも仕事仲間がいた」という傑作コピーがいまも強い印象を残している「凸凹デイズ」(内容も傑作だ)を筆頭に、山本幸久の作品には働く人間を主人公にしたものが多い。そういう作者が高校生を描くとは珍しい。

 高校3年になったばかりの錫之助が、ハンドベル部を作る顛末記だが、そのハンドベルとは、ピアノの鍵盤をばらばらにして、その1本1本をベルに置き換えたものであり、音符ひとつにつき、ハンドベル1本になるから複数の人間が心をひとつにして、演奏しなければならない。

 錫之助をはじめ全員が素人だから、これから習得するのは大変だが、問題は錫之助の通う高校が、彼の卒業と同時に廃校が決定していること。つまり今から新たなことに取り組んでも、1年間の限定つきなのだ。どのみち1年すれば卒業だが、学校があれば卒業後に遊びに来ることが出来る。しかしそれも出来ないのだ。青春とはもともと期間限定の季節だが、つまり本書は二重に限定された物語なのである。

 個性豊かな登場人物、巧みな挿話と鮮やかな構成。すべてが素晴らしい。読み始めるとやめられない面白さだ。山本幸久は軽妙な作風に定評のある作家だが、本書は「軽妙さ+感動」という傑作である。(KADOKAWA 1600円+税)


【連載】見た目で買った面白読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    愛川ゆず季が告白「長男の自閉症を隠していたわけじゃない。でも言葉にすごくパンチがあって…」

    愛川ゆず季が告白「長男の自閉症を隠していたわけじゃない。でも言葉にすごくパンチがあって…」

  2. 2
    西武激震!「松井監督休養、渡辺GM現場復帰」の舞台裏 開幕前から両者には“亀裂”が生じていた

    西武激震!「松井監督休養、渡辺GM現場復帰」の舞台裏 開幕前から両者には“亀裂”が生じていた

  3. 3
    中居正広「脱SMAP」成功の裏に“懐刀芸人”あり 自身が仕切る番組の「裏回し」任せ巧みに延命

    中居正広「脱SMAP」成功の裏に“懐刀芸人”あり 自身が仕切る番組の「裏回し」任せ巧みに延命

  4. 4
    愛川ゆず季が2歳で長男の自閉スペクトラム症を確信した“逆さバイバイ” ネット検索で不安のループに…

    愛川ゆず季が2歳で長男の自閉スペクトラム症を確信した“逆さバイバイ” ネット検索で不安のループに…

  5. 5
    元横綱・白鵬に「伊勢ケ浜部屋移籍案」急浮上で心配な横綱・照ノ富士との壮絶因縁

    元横綱・白鵬に「伊勢ケ浜部屋移籍案」急浮上で心配な横綱・照ノ富士との壮絶因縁

  1. 6
    1場所4人じゃ終わらない…元横綱白鵬の旧宮城野部屋勢“廃業ラッシュ”はこれからだ

    1場所4人じゃ終わらない…元横綱白鵬の旧宮城野部屋勢“廃業ラッシュ”はこれからだ

  2. 7
    石原裕次郎(13)慶応病院に入院…同乗したエレベーターを降りる際に掛けられた言葉

    石原裕次郎(13)慶応病院に入院…同乗したエレベーターを降りる際に掛けられた言葉会員限定記事

  3. 8
    松井稼頭央監督とは対照的…西武“連勝”渡辺監督代行が見せた「芯ある采配」

    松井稼頭央監督とは対照的…西武“連勝”渡辺監督代行が見せた「芯ある采配」

  4. 9
    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  5. 10
    “超ハイスペ外国人芸人”アイクぬわら 共演未成年少女「自宅連れ込み」で芸能界から退場か

    “超ハイスペ外国人芸人”アイクぬわら 共演未成年少女「自宅連れ込み」で芸能界から退場か