人間の悪意がどのようにうまれるかがよくわかる
「悪意の心理学 悪口、嘘、ヘイト・スピーチ」岡本真一郎著 中公新書 2016年7月
残念ながら、人間には性悪なところがある。しかし、学校教育のみならず会社や役所での教育は、性善説で組み立てられている。それだから、われわれは悪に直面したとき、過剰に傷ついたり、折れてしまったりする傾向がある。本書を読むと人間の悪意がどのようにうまれるかがよくわかる。特にインターネットが普及することによって悪意による被害が質量ともに高まっていることがわかる。
〈多くのインターネットでは投稿者が匿名で特定できない。したがって攻撃を加えても自分に仕返しや非難が及ばない。/しかし、ネットで互いに顔が見えない環境に置かれていることには、それ以外にも攻撃をエスカレートさせる要素があると考える。ネットでは攻撃を加える相手も見えない。相手からその場で反撃を受けるおそれがない。さらに、相手の痛みや苦しみも身近に感じにくくなる。人はこうした状況では残酷になりやすい。このことも攻撃を強めることへの抵抗を低めるだろう。/インターネット世界での「新しい自己」の創出も、マイナスに働きうる。ネットでの「ふだんとは異なった自分」は、対面状況では見られない「残酷な自分」ともなりうるのである。〉
さらに、インターネットでは、自分と同じか、もしくは近い意見にどうしても目が行きがちである。そのために、自分が考えていることが、事実と異なることであっても「他にも同じことを主張している人がいる」と偏見を強めてしまう効果がある。
インターネットは、情報を簡単に得ることが出来る便利な道具であるが、使い方を間違えると悪意の渦に巻き込まれてしまうことになる。人間は周囲の影響を受けやすい。サイバー空間で悪意のある意見ばかりに接触していると人格も変容してしまう。最近、ネットで知り合った人の間でのストーカー行為が深刻な問題になっているが、インターネットが人間の認識や性格を変容させてしまう危険性についての啓発活動が日本ではまだまだ不足していると思う。時には「ネット断ち」をして、情報に自分が押し潰されないようにする防衛策が必要だ。★★★(選者・佐藤優)