「バカじゃねえのか、安倍晋三は」と言いたくなる

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「ヘイトスピーチ」安田浩一著 文春新書 800円+税

「バカじゃねえのか、この国は」

 骨なしクラゲの星浩でなく、物申すジャーナリストの岸井成格がアンカーを務めていた今年の3月8日のTBS「NEWS23」で、福島県の農民、樽川和也が、こう憤怒の声を放った。

 東京電力の福島第1原発事故で田んぼや畑を放射能に汚染された樽川の家に、ある日、キャベツの出荷停止を指示するファクスが届く。その翌日、樽川の父親は自殺した。

 それから5年。マイクを向けられて、

「5年たって、怒りだけです。込み上げるのは」

 と樽川は語る。

「どこがクリーンで安全なエネルギーなんだい?」

 とも彼は問うているが、厚かましくも原発再稼働を進める政府や電力会社はこの声をどう受けとめるのか?

 自分に自信がなく、というより自分がなくて「日本」という国だけにすがる弱虫どもが、

「朝鮮人は皆殺シ」

 などのヘイトスピーチを行っている。

 その渦中に飛び込んで彼らの生態を追ったこの本で、著者は信じ難い事実を指摘する。

 奈良県は吉野のある神社の宮司がブログに「共産支那はゴキブリとウジ虫、朝鮮半島はシラミとダニ。慰安婦だらけの国」とか、「韓国人は整形をしなければ見られた顔ではない」と書き込んだ。

 そして、2013年春に「叙勲記念」として、ブログ記事などをまとめた本を自費出版した。さすがにここでは過激な表現は抑えられているというが、この本の巻頭に安倍晋三が「推薦のことば」を寄せているのである。

 安倍は宮司の経歴をなぞり、この本を「魂の日記」だと持ち上げて、「戦後失われた『日本人の誇り』をテーマとして、自分の国は自分たちが守らなければならないという強い意思を感じます。世界一の日本人、世界一の国家をめざして進むための道標となることと思います」と結んでいるという。

「バカじゃねえのか、安倍晋三は」

 と言いたくなるだろう。自信とは開かれたものであり、閉ざされたものではない。安倍を支持する「日本会議」ならぬ「日本だけ会議」が話題を呼んでいるが、世界に開かれないヘイトスピーチが跋扈する日本など、世界のどこも相手にしない。安倍こそが最大のヘイトスピーカーなのだ。★★★(選者・佐高信)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

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