「国会話法の正体」藤井青銅氏

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【「記憶にございません」という言葉を使うのは誰でしょう】という問題があったら、多くの人が国会議員と答えるだろう。かつては1976年のロッキード事件、最近では国会議員と旧統一教会との関係が追及される場で、伝家の宝刀のごとく用いられていた。

「発言や文章は、自分の考えを伝えて相手に分かってもらうことが基本です。しかし、いわゆる“国会話法”はまったくの逆。“分かりにくく”“伝わらないように”を目的とし、『何も言っていないのに、何か言ったように思わせる』『何が何でも非を認めない』ためにあの手この手を使います。そんな発言の連続に国民はうんざりし、やがて事件や出来事に興味を失っていきますが、これが相手の思惑通りだったらどうでしょう。手垢のつきまくった国会話法を使い、あえて国民の政治への興味を失わせているのだとしたら、かなりしたたかなことです」

 本書では、言葉を駆使する作家・脚本家という著者ならではの視点で国会話法を解析。よく聞くフレーズのどの部分にごまかしやはぐらかしのテクニックが仕込まれているのかを、図解しながら示している。国会話法界のキング・オブ・ごまかしとして燦然と輝く「記憶にございません」の場合、まず「記憶」という言葉にすり替えテクがあるという。

「〇〇に行ったのか、という疑惑に対する答えは、本来なら行った・行っていないの2択です。しかし、潔白でない場合に登場するのが『記憶にございません』です。すると、本当に覚えていないのか、なぜ忘れたのか、思い出せ、と話がずれていく。行った・行かないから、記憶がある・ないに論点のすり替えが成功するわけです」

■「丁寧に説明」などごまかしテクを解析

 ほかにも、「誤解を招いたとすればお詫び申し上げたい」の中にある「とすれば」によって実際にあったかどうかを曖昧にする印象操作テク。最近よく聞く「丁寧に説明していきたい」の中にある、丁寧の度合いは発言者の胸三寸であるという裁量テクや、語尾の「~たい」で意欲は示すが約束はしない先送り効果など、国会話法の正体が明らかにされていく。

「本書は、単に政治家の発言に噛みついて憂さを晴らそうとするものではありません。彼らの使うあやしい言葉を聞き流していると、政治に対して“NO”の声を上げることができなくなり、いつの間にか国民に不都合なことが決まってしまう事態にもなりかねません。国会話法が多用されているとき、背景には政治への関心をそらしたい何かがあるのかもしれないと考え、言葉をしっかりとつかまえて考えることが大切です」

 あまり読んで欲しくないことは小さな文字でびっしり書く「虫眼鏡作戦」や、引用を多用する「権威作戦」など日常に潜むけむに巻くテクニックも解説しながら、軽妙な文体で国会話法を斬る本書。しかし、笑いながら読んでいるうちに論点ずらしにまんまと引っかかってきた自分にも気付き、“笑っている場合か?”と考えさせられる。

 あらためて本書を片手に国会中継を見てみたくなる。

(柏書房 1870円)

▽藤井青銅(ふじい・せいどう) 1955年、山口県生まれ。作家・脚本家・放送作家。「オールナイトニッポン」の構成も手掛ける。落語家・柳家花緑に47都道府県の新作落語を書き下ろすプロジェクトが進行中。「『日本の伝統』の正体」「教養としての『国名の正体』」「元号って何だ?」など著書多数。

【連載】著者インタビュー

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