まもなく開園!ハリポタの世界を知る本

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「快読『ハリー・ポッター』」菱田信彦著

 東京都練馬区のとしまえん跡地に、6月16日、オープンする「ワーナーブラザース スタジオツアー東京」。世界で2番目のハリー・ポッターのテーマパークとあって、既にチケットは7月中旬まで完売している。これは、裏を返せば、知らない人でもまだ十分に追いつけるということ! 製作秘話から魔術の体系書まで、5冊をご紹介。

  ◇  ◇  ◇

「快読『ハリー・ポッター』」菱田信彦著

 シリーズの原作者であるJ・K・ローリングは、「ハーマイオニーとロンを結婚させたのは間違いだった」と発言している。

 才色兼備のヒロイン・ハーマイオニーの両親は、魔法使いでなく、魔法界では低く見られる家柄。この設定には、作者の被差別体験と英国の階級社会が投影されている。実際に、作者の両親は高卒で、名家ではないことからオックスフォード大学に合格できなかった。

 作者の、高い地位に生まれたかった願望に巻き込まれ、家柄以外の取りえがないロンとハーマイオニーは結婚することになったと、作者は自己分析しているのだ。しかし、本書は、ロンが名家であるにもかかわらず、貧しいことに注目。原作に立ち返り、ロンの家系は差別と闘ってきたと考察して、2人の結婚に新しい意味を見いだす。

 ほかにも、食糧から分析する魔法界と現実界の関係など、原作の世界をより深く理解できる一冊。

(小鳥遊書房 2200円)

「ケルトの世界」疋田隆康著

「ケルトの世界」疋田隆康著

 ケルト人が信仰していたドルイド教は、ハリー・ポッターの世界観に色濃い影響を与えたといわれている。

 特徴は、ドルイドと呼ばれる祭祀階級。ドルイドは、自然学や倫理学を若者に教育するという役割を持ち、多くの詩句を暗唱しなければいけなかった。まるで、呪文を必死に暗記したハリーたちのようである。

 また、シリーズに出てくる魔法の杖には、樫の木で作られたものがあるが、ドルイドの由来はギリシャ語「ドリュス(樫の木)」で、ドルイドたちは樫の森で儀式を行っていたとされる。

 紀元前1世紀には、ローマのカエサルらによって征服されたケルト。ローマは宗教に寛容であったが、ケルト人のドルイド教を通じた強固な結束は警戒して、悪魔的で不気味な存在として迫害の対象としていった。

 ケルトの神話や歴史を学術的に再構築した本書だが、シリーズの参考書としても読める。

(筑摩書房 968円)

「ハリー・ポッター 魔法生物大図鑑」 ジョディ・レベンソン著宮川未葉訳

「ハリー・ポッター 魔法生物大図鑑」ジョディ・レベンソン著宮川未葉訳

 映画は、さまざまな魔法生物たちに彩られている。

 ケンタウルスは、一般的に、馬の下半身に人間の上半身を乗せた「半人半獣」の姿で描かれる。

 しかし、映画のケンタウルスは、目が人間よりも離れていて、上半身も毛皮のような皮膚で覆われており、人間と馬の境い目が不明瞭。物語の世界観を踏まえ、1つの種族であることを視覚的に表現しているのだ。

 また、5メートル以上ある巨大グモは、680キロに達する実物大の模型を作成。手足は、水をケーブルに送り込む装置が使われ、油圧システムよりも優雅な動きが可能になった。CGを使わなかったのは、模型の方が経済的であることが理由だという。

 ほかにも、「3つの頭を持つ番犬の頭はそれぞれ別の犬種」「ハリーと戦ったドラゴンには、実際に火炎放射器が付けられていた」など、さらに映画を楽しめる副読書。

(静山社 3190円)

「マジック・オブ・ミナリマ」 ミナリマ、ネル・デントン著 青木あいこ、池内恵ら訳

「マジック・オブ・ミナリマ」ミナリマ、ネル・デントン著 青木あいこ、池内恵ら訳

 映画に登場した小道具に秘められた職人技を、小道具を担当した2人が明かした、ビジュアルブック。

 魔法学校・ホグワーツでは、使用する教科書の選定は、教員に委ねられている。実用的な教え方をするルーピン先生の教科書は、銀箔がふんだんに使われ、一方で、生徒に人気のないアンブリッジ先生は、子どもが楽しそうに教科書をのぞく表紙の、いかにも子どもっぽいものを使用。表紙には、絵の中にさらに小さな同じ絵が重なる「ドロステ効果」が使われ、終わることのない勉強のサイクルが表現されている。

 魔法界の新聞や雑誌にはよく見ると、「ガーリック・トーストの大量摂取でドラキュラが死亡」や「レタス食い虫の粘液が乳幼児の免疫力を上げる」などのユーモラスな見出しが並び、芸が細かい。

(ハーパーコリンズ・ジャパン 5940円)

「魔術の歴史」クリス・ゴスデン著、松田和也訳

「魔術の歴史」クリス・ゴスデン著、松田和也訳

 19世紀以来、合理性と客観性を追求した近代文明によって、「魔術」は周縁へと追いやられた。

 しかし、実は、現代でも多くの人の生活に、低レベルの魔法はしみ込んでいるという。2007年の調査では、米国人の79%が「奇跡は現在も古代と同様に起こっている」と回答し、黒猫を不吉とするようなジンクスから、壊れたプリンターなどの言葉が通じないものに対して毒づいてしまうなど、多くの人が非合理的な行動をとる。

 魔術と科学は相反するようだが、「世界の作用と、その仕組みから利益を得る」という点で、欲望の源泉は同じ、と著者は主張。その上で、人間と世界を切り離す科学偏重の時代へ警鐘を鳴らす。

「シャーロック・ホームズを描いたコナン・ドイルは『心霊倶楽部』や『心霊現象研究会』に入会していた」「フロイトは協会の会合に霊媒師を連れて行き、反感を買っていた」など、偉人たちのエピソードも面白い。

(青土社 4620円)

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