増位山太志郎
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増位山太志郎元大相撲力士

1948年11月、東京生まれ。日大一中から一高。初土俵は67年1月場所、最高位は大関。引退は81年3月場所。引退後は日本相撲協会で審判部副部長を務めた。74年「そんな夕子にほれました」、77年「そんな女のひとりごと」などがヒット。画家として二科展入選の常連。「ちゃんこ増位山」(墨田区千歳)を経営。

<6>真冬の朝4時、霜が解ける一番寒い時間は膝下の感覚がなくなった

公開日: 更新日:

 先代(増位山)の親父の育て方は納得しています。

 日大一中・一高時代は部活(水泳部)から帰って家でへたばっていたり、夜遅く帰ったりして、よく怒られました。怖かったですよ。

 ところが、力士になってからは全然、怒らなくなった。自分が苦労して歩いてきた同じ道に息子も進んだということで、考えるところがあったんだろうね。相撲の技については弟子として教えてくれたけど、相対する時は一人の人間、人格として認めてくれた。

 ある日、若い衆4、5人が固まってしゃべっていることがありました。僕が近づくとパッと話をやめるんですよ。これは親父の悪口を言っているんだなと思いましたね。そのままだと自分は仲間外れになると直感でわかりました。なので、門限破りとか悪いことを率先してやるようにしました。それを知ったら、親父は怒鳴る。でも、親子だから僕の目を見れば、どういうことかわかるんです。僕を怒っておけば、仲間外れにならないだろうという親心。どんな社会でも特別扱いしたらダメになることがわかっていたんだと思います。

 親父は苦労人でしたから、稽古は厳しかったですね。真冬で寒くて震えるくらいでも朝4時起きで稽古する。朝方の霜が解けてくる時間が一番寒くてね。膝から下の感覚がなくなってくる。でも、手抜きなし。つらかったですよ。ただし、当時はそれをやらないと強くなれないという信念を持っていて、耐えた力士はみんな三役以上になりました。

 こういう考え方は最近、変わってきているから難しいですね。昔は中学を出て着物の畳み方もちゃんこの作り方も一から教わってやったけど、大学出身の力士はそういうことを知らないし、やらされない。これはもう仕方がないですね。

 今でも通じるのは「やる気」でしょうね。自分が強くなるために何をするべきか、つねに考えて努力する。それができないと上に上がれない。それは今も昔も同じです。自分がそういう立場になったら自然とやる気になることもあるし、好きなことじゃないとやる気が出てこないこともある。大切なのは最初の志を最後まで持ち続けること。それが進歩に結びつく。

好事魔多し。ちょっかいを出してくるヤツがいっぱいいる

 もっとも、相撲の世界は好事魔多し、でね。いろんな誘惑があって、ちょっかいを出してくるヤツがいっぱいいる。事件も起きる。最近もキャバクラに行った力士が問題になったけど。ちょっかいを出してくるのがいたら、知らん顔をして通り過ぎるしかない。君子危うきに近寄らず、です。

 とくに横綱とか大関、三役となると多くなる。我々が若かった時はタニマチと一緒にしか飲みに行かなかったし、タニマチがいない時は若い衆を連れて行ってワンクッションを置くようにしました。そうすると、例えば大関が何か言ったということにならない。トラブルになるのはたいてい一人の時です。

 脇が甘い。相撲は脇が甘かったらダメなんです(笑い)。=つづく

(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ)

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