松尾潔
著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

クドカン×TBS磯山晶「不適切にもほどがある!」は旧ジャニーズ出演ゼロでも物足りなさ皆無

公開日: 更新日:

 今週と来週の2週にわたって、最近もっとも心を揺さぶった2本の新作エンターテインメントをご紹介したい。いずれも「昭和」「中学校」「音楽」が大きな役割をはたしている両作品だが、作り手の生年は、1968年生まれのぼくの2つ上と2つ下。まあ同世代といって差しつかえないだろう。

 まずひとつめは、宮藤官九郎(1970年生まれ)がオリジナル脚本を手がける阿部サダヲ主演のTBS金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』。明日(2月9日)でまだ第3話ながら、すでに今クール最高傑作と評判なのでご存じの方も多いはず。

 阿部演じる小川市郎は、ザ・昭和のダメオヤジ。中学の体育教師にしてシングルファーザーの彼は、校内だろうが路線バスだろうが所構わずハイライトを吸い、パワハラ、セクハラをくり返す。そんな小川が1986(昭和61)年から2024(令和6)年にタイムスリップ。彼がまき散らす数々の不適切な言動が、コスパ、タイパ、コンプラが過ぎて窮屈な思いを抱える令和ニッポンの人びとを撹乱していく、という筋立て。阿部サダヲは当たり役。これで「今年の顔」になることは約束されたようなものだ。『不適切』は阿部サダヲの唯一無二の存在感ありき、とまずは断言しておく。

 宮藤ドラマお得意の特定の元ネタへのオマージュ、饒舌なほどの小ネタ使いは今回も健在。大いに笑える。だがそこはエモさとクールさを併せもつ驚異のドラマ脳の主クドカン、安直な「昭和あるある」に堕する愚は犯さない。むしろ昭和と令和のシーンをテンポよく切り替えることで、両方の時代の良いところとそうでないところを丁寧に相対化し、両論併記の絶妙なバランスを探ることに余念がない。その手際は、言うなれば1曲の中に複数のネタをサンプリング使用する手練れのDJのごとし。カラフルなサウンドを描きながらも、普遍的な美しさを備えた主旋律をすっきり聴かせる名人芸。きっと宮藤さんだけじゃなくて、制作チーム全体を評価すべきなんでしょうね。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

  2. 2
    今オフ勃発「FA捕手大シャッフル」…侍Jの巨人・大城、SB甲斐を筆頭に中日、阪神も参戦か

    今オフ勃発「FA捕手大シャッフル」…侍Jの巨人・大城、SB甲斐を筆頭に中日、阪神も参戦か

  3. 3
    “辞めジャニ”野村義男は59歳で現役バリバリ!引く手あまたの秘訣は「第三の道」を歩んだこと

    “辞めジャニ”野村義男は59歳で現役バリバリ!引く手あまたの秘訣は「第三の道」を歩んだこと

  4. 4
    ロピア(下)埼玉の上場スーパー「スーパーバリュー」買収で“変身”した

    ロピア(下)埼玉の上場スーパー「スーパーバリュー」買収で“変身”した

  5. 5
    伊藤信太郎環境相は“ボンボン”2世議員…六本木の大豪邸、幼稚舎から慶応育ちで「弱者の気持ち」分かるワケなし

    伊藤信太郎環境相は“ボンボン”2世議員…六本木の大豪邸、幼稚舎から慶応育ちで「弱者の気持ち」分かるワケなし

  1. 6
    補選トップ当選の酒井なつみさん、政治って困窮者を守るためにあるんじゃないの?

    補選トップ当選の酒井なつみさん、政治って困窮者を守るためにあるんじゃないの?

  2. 7
    “エッフェル姉さん”は何しに豪州・韓国へ? GWに再び海外視察、松川るい事務所を直撃した

    “エッフェル姉さん”は何しに豪州・韓国へ? GWに再び海外視察、松川るい事務所を直撃した

  3. 8
    巨人・大城卓三が今オフ国内FA権行使か…監督交代で評価と立場が一変、出場数も激減

    巨人・大城卓三が今オフ国内FA権行使か…監督交代で評価と立場が一変、出場数も激減

  4. 9
    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

  5. 10
    「金」相場は歴史的な高騰に沸くけれど…次なる投資先に銀・プラチナはアリ?

    「金」相場は歴史的な高騰に沸くけれど…次なる投資先に銀・プラチナはアリ?