松尾潔
著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

「内なる偏見に気づいたら是正しよう」を否定する人はそういないはずだが…

公開日: 更新日:

 昨夏からラジオでよく流れている、ACジャパンのジェンダー平等キャンペーンCMをご存じだろうか(テレビ版もあるが、ぼくは放映を観たことがない)。

 まず包丁で食材をトントン刻む音が流れ、「キッチンで夕食の支度をする人がいます」とナレーションが入る。黒板にチョークを走らせる音には「パイロットになる夢を発表する子どもがいます」。最後は「想像したのは男性の姿ですか? 女性の姿ですか? 無意識の偏見に気づくことから、はじめませんか」という問いかけで終わる。

 これを初めて聞いたときのハッとする感覚、追いかけるように込みあげてきた羞恥心はいまだに忘れられない。なぜなら、頭に浮かんだ姿を嘘偽りなく言えば「夕食の支度をする人=女性」「パイロット=男性」だったから。そりゃもちろん、夕食を毎日作る男性がいることも、女性パイロットの存在も、知識としてはあるよ。でも行動や職業の主体者の性を不意に問われたら、自分がちっぽけな人生の経験だけを根拠に長年決めつけてきたものが、見事にあぶり出されてしまう。

 夕食の支度をする父を見ることはついぞなかったし、ぼくがいまキッチンに立つのも稀。パイロットの知り合いは何人かいるが、女性はひとりもいないしなあ。取材等で社会的な話題を問われるたびに「何事にもしなやかに対応していきたいですね」なんてもっともらしく語っている自分も、その実態はカビ臭い先入観と偏見まみれのオジサンと言い当てられた感じ。恥ずかしかったな、あれは。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    今オフ勃発「FA捕手大シャッフル」…侍Jの巨人・大城、SB甲斐を筆頭に中日、阪神も参戦か

    今オフ勃発「FA捕手大シャッフル」…侍Jの巨人・大城、SB甲斐を筆頭に中日、阪神も参戦か

  2. 2
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 3
    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  4. 4
    3Aでもボロボロ…藤浪晋太郎の活路を開くのは阪神復帰か? 日本ハム、オリックス移籍か

    3Aでもボロボロ…藤浪晋太郎の活路を開くのは阪神復帰か? 日本ハム、オリックス移籍か

  5. 5
    3人兄妹の末っ子だから年上と遊ぶ機会が多く、彼らと遊ぶだけの体力もあった

    3人兄妹の末っ子だから年上と遊ぶ機会が多く、彼らと遊ぶだけの体力もあった

  1. 6
    “辞めジャニ”野村義男は59歳で現役バリバリ!引く手あまたの秘訣は「第三の道」を歩んだこと

    “辞めジャニ”野村義男は59歳で現役バリバリ!引く手あまたの秘訣は「第三の道」を歩んだこと

  2. 7
    巨人・秋広が今季初昇格も阿部監督「全く期待していない」…のんきな性格がアダで早くも背水の陣

    巨人・秋広が今季初昇格も阿部監督「全く期待していない」…のんきな性格がアダで早くも背水の陣

  3. 8
    阪神・岡田監督が密かに温めていた「藤浪獲得プラン」が消滅していた…

    阪神・岡田監督が密かに温めていた「藤浪獲得プラン」が消滅していた…

  4. 9
    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

  5. 10
    人間性やスタンスが如実に表れたMLB挑戦時の「西海岸かつ小規模都市」へのこだわり

    人間性やスタンスが如実に表れたMLB挑戦時の「西海岸かつ小規模都市」へのこだわり