「カレーライスと餃子ライス」片岡義男著

公開日: 更新日:

「カレーライスと餃子ライス」片岡義男著

 店で食べるカレーライスを木製のスプーンで食べたいと思った僕は、熟考の上、ケヤキのカレースプーンを選んだ。店も迷った末、京都の昭和12年創業の喫茶店のカツカレーに決めた。わざわざ新幹線で2時間かけて来たが、食べることができなかった。実は地元の人たちしか来ない喫茶店で名物のカレーを食べてしまい、いっさいお腹に入らない状態だったからだ──。

 あるとき「1本の金属のスプーンですくっては口に入れる行為が、これほどまでに人を幸せにするとは」と感じ入った著者によるカレー漂流記。

 200円カレーがあると聞けば電車賃のほうが高くなろうとも出掛け、カツカレーのはしごをもくろみ、立ち食いインドカレーの店に知人と連れ立つ……と、神保町、下北沢などあちこちで食して歩く。ユニークなのは、カレーにまつわる思い出などはつづるが、味についてはほとんど触れていないこと。さらに、カレーとコーヒーがセットになって登場するので、カレーのスパイシーさとコーヒーの苦みが思い出され、読んでいるだけで味わった気分だ。第2章は男性ライターを主人公にした書き下ろし短編。

 著者や知人の「涙と一緒に食べた」「母親の味」などカレーにまつわる思い出が面白い。 (晶文社 1870円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    「悠仁さまに一人暮らしはさせられない」京大進学が消滅しかけた裏に皇宮警察のスキャンダル

    「悠仁さまに一人暮らしはさせられない」京大進学が消滅しかけた裏に皇宮警察のスキャンダル

  2. 2
    香川照之「團子が後継者」を阻む猿之助“復帰計画” 主導権争いに故・藤間紫さん長男が登場のワケ

    香川照之「團子が後継者」を阻む猿之助“復帰計画” 主導権争いに故・藤間紫さん長男が登場のワケ

  3. 3
    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  4. 4
    巨人・菅野智之の忸怩たる思いは晴れぬまま…復活した先にある「2年後の野望」 

    巨人・菅野智之の忸怩たる思いは晴れぬまま…復活した先にある「2年後の野望」 

  5. 5
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  1. 6
    鹿児島・山形屋は経営破綻、宮崎・シーガイアが転売…南九州を襲った2つの衝撃

    鹿児島・山形屋は経営破綻、宮崎・シーガイアが転売…南九州を襲った2つの衝撃

  2. 7
    「つばさの党」ガサ入れでフル装備出動も…弱々しく見えた機動隊員の実情

    「つばさの党」ガサ入れでフル装備出動も…弱々しく見えた機動隊員の実情

  3. 8
    女優・吉沢京子「初体験は中村勘三郎さん」…週刊現代で告白

    女優・吉沢京子「初体験は中村勘三郎さん」…週刊現代で告白

  4. 9
    ビール業界の有名社長が実践 自宅で缶ビールをおいしく飲む“目から鱗”なルール

    ビール業界の有名社長が実践 自宅で缶ビールをおいしく飲む“目から鱗”なルール

  5. 10
    悠仁さまが10年以上かけた秀作「トンボの論文」で東大入試に挑むのがナゼ不公平と言われるのか?

    悠仁さまが10年以上かけた秀作「トンボの論文」で東大入試に挑むのがナゼ不公平と言われるのか?