古内一絵(作家)
5月×日 ずっと積読していた“業界騒然小説”村山由佳著「PRIZE」(文藝春秋 2200円)を恐る恐る読み始める。これは厳しい。作家デビューして14年目になるが、実は私は正賞をとっていない。デビューは特別賞だったし、次に頂いた賞は部門賞だ。そのことについて何も思わないわけではないけれど、極力、賞のことは考えないようにしている。書きたいものが自由に書けなくなる怖さと、なにより自分の心を護るためだ。そんな私の耳元で、天羽カイン様が「だからお前は駄目なんだよ」「この軟弱者が!」と始終怒鳴り続けるのである。やめて~。それでもさすがの村山由佳さん。あまりに面白くて、一晩で読んでしまった。
5月×日 カイン様にやられまくった心を癒すために、これも積読だったファン・ボルム著「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」(集英社 2640円)を読む。読書に珈琲に編み物。いやー癒される。特に「風が好きでよかった」のくだりが大好き。
5月×日 時々、明治や昭和初期の作家の本が読みたくなる。今回は内田百閒著「蓬莱島余談 台湾・客船紀行集」(中央公論新社 990円)をチョイス。当時は台湾へ行くのも船旅が主流。神戸港から船に乗り込んだ百閒先生、原稿が書けなかったので稿料が入ってこないと、うじうじ嘆いている。そりゃあ百閒先生といえども、書いていない原稿の稿料は入ってこないよね。だが、これはこれで大変に癒される。
5月×日 まだまだ癒しが足りないので、藤野千夜著「団地のふたり」(双葉社 693円)シリーズを再読。団地暮らしのふたりの50代女性の何気ない日常。優しく温かな筆致だが、ふいに涙が込み上げる。この作品、本当は「団地の三人」の物語なのだ。
5月×日 6人の作家による「駅と旅」(東京創元社 858円)を読む。同じテーマでも作家によって全く違う物語に。最近は、こうした文庫アンソロジーが多いようだ。そう言えば、私も今年は「いただきますは、ふたりで。」というアンソロジーに参加した。と、宣伝臭くなったところで、お後がよろしいようで。