和田秀樹
著者のコラム一覧
和田秀樹精神科医

1960年6月、大阪府出身。85年に東京大学医学部を卒業。精神科医。東大病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。著書多数。「80歳の壁」(幻冬舎、税込み990円)は現在、50万部のベストセラーに。最新刊「70歳の正解」(同)も好評発売中。

不本意な治療を受けないためにも…高齢者のがんには「治療しない」という選択肢もある

公開日: 更新日:

 国立がん研究センターの調査によると、生涯でがんになる割合は、男性は3人に2人、女性は2人に1人です。50歳から10年でがんを発症するのは、男性5.2%、女性6.7%ですが、30年後はそれぞれ43%、29%で年齢が上がるほど発症率はアップします。

 その調査結果を踏まえると、高齢者が恐れる病気のひとつは、やはりがんでしょう。1981年以来、死因のトップになっています。

 私がかつて勤めていた浴風会病院は、高齢者専門の総合病院です。在院者の平均年齢は85歳で、在籍当時、毎年200人が病院で亡くなっていました。その約半分の高齢者を病理解剖すると、85歳以上でがんのない人は、いませんでした。

 ところが、死因ががんだった方は大体3分の1で、残りの3人に2人はがんが死因にならないで共存し、ほかの病気で亡くなったことになります。がんの診断を受けているかどうかはケース・バイ・ケースでも、結果的にがんを“飼っていた”ととらえられるかもしれません。

 高齢者にとって、がんはとてもありふれた病気で、高齢者本人やその家族にがんの治療について相談されることは珍しくありません。では、どんなふうに答えるかというと、高齢者の場合、なるべく手術も化学療法も受けないことをお勧めしています。

 私は、高齢のがん患者さんをたくさん診ています。たとえば、手術を受けた方と受けていない方を比べて、手術を受けた方が術後の回復がうまくいかず、消化器官を取られてやせ細り、見る影もなくなってしまうことはよくあります。化学療法についても同様で、治療後に体力を落とし、長引く不調でつらい思いをされたまま亡くなる方も少なくありません。

 がんで自覚症状が現れるのはかなり進行してからで末期です。それまでは、痛みをはじめとするつらさや苦しさはほとんどありません。一般にがんは、高齢になるほど進行が遅いといわれますが、私の経験からも確かにその傾向はあると思います。なるべく治療をしないでがんと共存するという提案は、がんの特徴や私の経験を踏まえてのことです。

 もちろん、がんの種類や病院、執刀医の技術などによっては、体力を落とさないように、がんだけを切り取って、周りの臓器を残す、という術式ができないわけではありません。そんな手術を受けるには、事前にそれが可能な病院を探しておくことが不可欠です。

 がんと診断されたとき、多くの方はがんの知識がないことで不安を感じると思いますが、そういうときに医師に治療法を提案されると、判断がつきません。事前に調べておけば、少なくとも医師に不本意な治療を勧められるリスクは下がるでしょう。何もしないという選択は、不本意な治療を受けないためでもあります。

【プレミアム会員限定】オンライン講座
 和田秀樹「『ボケ』とは何か」動画公開中
 https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4608

和田秀樹氏の著書「いつまでもハツラツ脳の人」(1100円)日刊現代から好評発売中!

最新のライフ記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    本来は「9月左翼構想」だが…大谷が打てば打つほど手術明けの外野守備は前倒しの気配

    本来は「9月左翼構想」だが…大谷が打てば打つほど手術明けの外野守備は前倒しの気配

  2. 2
    真美子夫人も共同オーナーに? 大谷「25億円別荘購入」の次は女子プロバスケチーム買収か

    真美子夫人も共同オーナーに? 大谷「25億円別荘購入」の次は女子プロバスケチーム買収か

  3. 3
    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

  4. 4
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  5. 5
    別居情報を払拭?福山雅治の妻・吹石一恵の幸せ自粛ライフ

    別居情報を払拭?福山雅治の妻・吹石一恵の幸せ自粛ライフ

  1. 6
    堀江しのぶがスキルス性胃がんと判明 余命2か月の宣告に…

    堀江しのぶがスキルス性胃がんと判明 余命2か月の宣告に…

  2. 7
    原田美枝子「女優生活50年」で紫綬褒章の感慨…夫・石橋凌の“隠し子騒動”乗り越えて

    原田美枝子「女優生活50年」で紫綬褒章の感慨…夫・石橋凌の“隠し子騒動”乗り越えて

  3. 8
    政権に忖度するテレビ朝日に「株主提案」で問題提起 勝算はあるのか…田中優子さんに聞いた

    政権に忖度するテレビ朝日に「株主提案」で問題提起 勝算はあるのか…田中優子さんに聞いた

  4. 9
    大谷「DH独占」打ちまくり、週間MVPも…他の野手を休ませられないロバーツ監督のジレンマ

    大谷「DH独占」打ちまくり、週間MVPも…他の野手を休ませられないロバーツ監督のジレンマ

  5. 10
    あえてGWに「裏金不起訴」で大炎上!萩生田光一氏と世耕弘成氏を待つ“市民感覚”の鉄槌

    あえてGWに「裏金不起訴」で大炎上!萩生田光一氏と世耕弘成氏を待つ“市民感覚”の鉄槌