元選手の肩書捨て…伊シェフで再起した元ドラ1投手の挑戦
“住みたい街”ランキング常連の東京・自由が丘。お洒落なカフェやレストランが軒を連ねる駅前で、イタリア料理店のオーナー兼シェフを務めるのが水尾嘉孝さん(47)だ。大リーグ挑戦を含め大洋(現DeNA)、オリックス、西武などで活躍した元プロ野球投手である。
「自分から元野球選手とは言わないので。私の過去を知らないお客様の方が多いと思いますよ」
水尾さんは1990年ドラフト1位で大洋(現DeNA)に入団。当時、球界最高額の契約金1億円でプロ入りした左腕とあって、世間の注目を浴びた。そんな投手が引退後に「イタリア料理」の道に進んだのは、本人なりの哲学があった。
「私は現役時代から、野球界はしがみつく場でも、何十年と続けられる仕事でもないと思っていました。それなら、次の職は生涯向き合える料理人がいいかなと。そこで、イタリアンで最高のシェフを目指そうと思い、引退直後の05年から大阪の老舗洋食屋で修行をしながら、夜間の料理学校に通う生活を始めました」。
連日、朝7時から夜6時まで修行先でアルバイト。終わると、その足で料理学校に向かった。眠い目をこすりながら深夜まで食の勉強に励む日々は想像以上に過酷だった。およそ1年半はほぼ無休。しかし、「私のプロ野球人生は故障がちで、練習したくてもできない苦しみばかりだった。それに比べれば何かをやれる機会を与えられるのは幸せ」。つらさは感じなかった。