鈴木良平
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鈴木良平サッカー解説者

1949年6月12日生まれ。東京都世田谷区出身。東海大卒業後の73年、ドイツの名門ボルシアMGにコーチ留学。名将バイスバイラーの薫陶を受け、最上級ライセンスのS級ライセンスを日本人として初取得。84-85年シーズンのドイツ1部ビーレフェルトのヘッドコーチ兼ユース監督。なでしこジャパン初代専任監督。98年福岡ヘッドコーチ。

30日早朝にオランダ戦 なでしこ新指揮官の「ボールを奪う」というコンセプトはまだまだ道半ば

公開日: 更新日:

 女子日本代表「なでしこジャパン」が、東京五輪代表を率いた高倉麻子監督(53)体制から池田太監督(51)体制へと移行し、初の海外遠征となったオランダでのアイスランド戦(日本時間26日早朝キックオフ)を注意深くテレビ観戦させてもらった。

 なでしこの世界ランクは13位。アイスランドは16位。なでしこは2001年女子W杯ドイツ大会を制して世界女王になり、アイスランドはW杯にも五輪にも出場していない。なでしこは、いわゆる<格上>ということになるが、試合自体は14分、71分にサイドを突かれて失点してしまい、0-2というスコアで敗れてしまった。

 この試合の見どころとして、池田監督が就任以来、選手たちに伝えている「ボールを奪う」というコメントに着目した。

 なでしこのこれまでの戦い方は「パスを何本も繋いで試合のペースを握って相手ゴールに迫っていく」というもの。劣勢になった時には「労を惜しまぬ運動量」「チームメート同士が助け合う献身性」「最後まで諦めないタフな精神力」を遺憾なく発揮し、相手の攻撃を跳ね返すのが常だった。

 そこに新指揮官は「ボールを奪う」というコンセプトを導入した。

 ただたガムシャラにボール奪取に精を出すのではなく、チーム全体が連動しながら「実効的プレスをかけて効率的にボールを奪って一気に攻撃を仕掛けてゴールを陥れる」ことを目的としているわけだが、このプレッシングサッカー自体、コンパクトなエリアの中で敵味方が入り乱れて攻守をせめぎ合う近代サッカーに必要不可欠となっている。

 なでしこが今後、積極的に取り組むべきことのひとつである。

 しかし、結論から言うと……新生なでしこの「ボールを奪う」というサッカーは、まだまだ道半ばと言うしかない。

 局面によっては複数選手が囲い込み、ボールを奪ってからカウンターを仕掛けるシーンも見られたが、アイスランドの選手たちを「怖い!」と思わせるような決定的な場面は見られなかったし、連動性という部分に置いても、改善の余地は十二分にあると感じた。

 もちろん欧州組と国内組の合同練習時間は短かったし、代表歴の少ない選手や久しぶりの代表招集となった選手も少なくなく、その辺りを斟酌(しんしゃく)する必要があることは理解しているが、代表チームである限り、与えられた<短い>時間の中でチーム戦術、グループ戦術を落とし込みながらレベルアップを図っていかないといけない。

 30日の早朝には、世界ランク4位の強豪オランダと対戦する。なでしこのサッカーがどの程度まで通用するのか、しっかりと見極めて今後の糧としたいところである。

守備の課題をオランダ戦でどう克服するか

 守備について気になった部分を指摘したい。

 失点シーンを振り返るまでもなく、自陣両サイドを崩されてピンチを招いて失点するーーというのが、東京五輪のチームもそうだったし、現チームでも目についた。

 左SBのDF宝田沙織が攻撃参加して空いたスペースを突かれ、相手の韋駄天ウインガーに突破を許して失点に繋がったが、自ゴール前まで戻って守備に回ったのが、左MFとして攻撃を差配する役目の長谷川唯だった。

 攻撃系選手の長谷川を守備に奔走させるのではなく、CBのDF南萌華とDF三宅史織が、左にスライドしてポジションを臨機応変に変えて対応する方が、失点を防ぐことに繋がったはずだ。 

 もともと日本の女子サッカーは、相手に「ピッチの縦・横を広く使って展開される」と脆さを露呈することが多かった。

 フィジカルで優位に立たれてサイドを俊足選手にかき回され、最後はゴール前で長身選手にヘディングでズドンと決められるーーといったような場面の繰り返しだった。

 なでしこの監督、選手ともにアイスランドのサイド攻撃を予期し、それなりの対応を講じたようだが、それでもやられてしまった。次戦の相手オランダもワイドから積極果敢に攻めてくるチームだ。適切かつ臨機応変な守りを見せて欲しい。

池田なでしこへの期待

 池田監督は、2018年にフランスで行われた女子U-20W杯で女子日本代表を率いて参戦。見事に優勝の栄に浴している。その時の主軸を多く代表チームに呼び、代表歴なしのMF成宮唯や3年ぶりの招集となった代表歴1試合のMF長野風花を先発させるなど、世代交代を視野に入れながらの大胆な采配だった。

 左から長谷川、長野、MF楢本光、成宮の中盤4選手は、フィジカル的に恵まれているとはいえないが、いずれも高い技術と素晴らしいパスセンスを持ち、アイスランドの大柄な選手にチェックされながら、絶妙パスを繋いでいった。

 何度も「上手い」と言ってしまった。

 ただし、中盤やサイドでパスをいくら回したからと言ってゴールに直結するものではない。なでしこのお家芸である「細かいパス回し」をどう改善すれば得点力アップに繋がるのか? 

 池田なでしこジャパンに大いに期待したい。

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