五木寛之 流されゆく日々
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連載12166回 口笛を吹きながら <5>
(昨日のつづき) 秋田へいってきた。 秋田魁新報と秋田県立大学が共催する<生涯学習プログラム>の公開講演会で、講演というか、短いお喋りをするためである。 短いというのは講演の時間が1時間と…
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連載12165回 口笛を吹きながら <4>
(昨日のつづき) 1173年に生まれた親鸞については、さまざまな文献があるが、本当のところはよくわからない。 定説はもちろんある。権威ある学者の研究もあるし、とほうもない仮説もないではない。 …
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連載12164回 口笛を吹きながら <3>
(昨日のつづき) 人はだれでも、時として夜中に何度か目が覚めることがあるものです。 運動するのと同じように、眠るにもエネルギーが必要であるらしい。未だ夜明けには遠い深夜にひとり目覚めて、あれこ…
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連載12163回 口笛を吹きながら <2>
(昨日のつづき) <人生は短く 芸術は長し> などといいますが、実際には人生も決して短いものではありません。 桜の花のように、パッと咲いてパッと散ることが国民の生き甲斐のようにいわれた戦前、…
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連載12162回 口笛を吹きながら <1>
人が長生きするようになったことは、人間にとってはたして幸せなことなのだろうか、とふと考えることがあります。 最近の統計では、男性の平均寿命は、およそ81歳。女性が87歳となっています。 女性…
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連載12161回 いい加減な生き方 <5>
(昨日のつづき) 文明は確かに進歩した。 AIの登場など、かつては想像もできなかった文明の利器の登場である。 機械と人間、という究極の問いが今、私たちにつきつけられているのだ。 人生相…
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連載12160回 いい加減な生き方 <4>
(昨日のつづき) 戦争というのは、やっている最中が問題なのではない。 戦後、すなわち戦争が終った後が大変なのだ。 戦後80年という。区切りのいい時期ではあるが、80年たっても戦争は本当に終…
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連載12159回 いい加減な生き方 <3>
(昨日のつづき) きょうは日本経済新聞のインターヴュー。 長嶋フィーバーが一段落したと思ったら、こんどは戦後80年とかで、1945年の夏の記憶を総ざらい。 なにしろ当時のことを思い出して語…
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連載12158回 いい加減な生き方 <2>
(昨日のつづき) 人はどう生きるべきか。 時代を超えて、すべての人間はそのことを考える。 考えることが苦手な人間でも、折りにふれて自分の生き方について思うことはあるだろう。 人はさまざ…
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連載12157回 いい加減な生き方 <1>
なにごとにつけても、私はいい加減な人間だ、と、つくづく思うことがある。 しかし、いい加減、ということは、そもそもがいい加減な表現なのだ。 そこには2つの意味があるので厄介なのだ。たとえば「い…
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連載12156回 時代は回転木馬 <4>
(昨日のつづき) オールスター第2戦もパ・リーグの勝ち。2日続けてテレビ中継を観て、仕事がとどこおってしまった。 大急ぎで平凡社から出る対談集、第2巻の前書きを書く。 目下、発売中の第1巻…
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連載12155回 時代は回転木馬 <3>
(昨日のつづき) ミカンを食べながら、オールスターのテレビ中継を見る。 せっかく球場に満員の観客がつめかけているのに、退屈な試合だった。 このところ観衆のあいだに若い女性の姿が目立つのは、…
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連載12154回 時代は回転木馬 <2>
(昨日のつづき) そのキーを押さえられると、自然に心がうるむ。そんな泣きどころを私たち昭和世代はもっている。 メロディーでいうとマイナーだ。1000年以上も昔から、この列島に生きてきた人間の生…
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連載12153回 時代は回転木馬 <1>
新聞もテレビも、選挙報道で大にぎわいだ。 しかし、なんとなく新聞よりもテレビのほうが醒めている気配がする。 どうせ大したニュースではないと、なめきっている感じだ。新聞よりテレビの世界が世間の…
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連載12152回 末端が大事なのだ <5>
(昨日のつづき) 重要な部分は、末端に支えられている。それが私の頑固な偏見だ。 頭部の中心は脳。脳は、目、耳、口に支えられている。もちろん手足の指先や、皮膚にも支えられている。 手足は指先…
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連載12151回 末端が大事なのだ <4>
(昨日のつづき) 昨日は市ケ谷の『アルカディア』で催しものがあって出かけた。 <坪田譲治賞40周年記念>の行事が催されたのだ。 初期の頃からずっとその賞の選考委員をつとめてきたので、ご苦労さ…
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連載12150回 末端が大事なのだ <3>
(昨日のつづき) <端っこが大事> という考え方は、子供の頃からずっと思っていたことである。 食べものなどもそうだ。真ん中の、いかにも美味そうな部分より端っこのほうが旨い。頂きものをしたりし…
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連載12149回 末端が大事なのだ <2>
(昨日のつづき) 人は物事に順位をつける。 中央と地方、という考え方もそうだ。私は若い頃、金沢に住んでいた。新人賞もそこでもらい、直木賞の候補になったのも金沢にいた頃だった。 俗に「加賀百…
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連載12148回 末端が大事なのだ <1>
夜、寝る前に、少し体の手入れをする。 ずっと毎晩やっているうちに、習慣になってしまったのだ。 まず両手を組み合わせて、ゴリゴリこする。手というより指だ。5本の指を交差させて、左右に振るのでは…
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連載12147回 古い記憶、新しい記憶 <5>
(昨日のつづき) いま、雷が近くに落ちた。耳を押さえて原稿を書く。 記憶というものは、脳の中にのみ保存されるものではあるまい。 身体に刻まれた記憶というものもある。それを意識することで古い…