昭和40年男
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <19>
「私もね、本当は山口百恵みたいに絶頂期に引退して家庭に入りたかったの」 囲炉裏端の座布団に座った莉乃が右隣りの美岬に向けて言った。 「走り幅跳びじゃ、オリンピックや世界選手権でメダルを獲…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <18>
「おかあさん。今日は莉乃の一家が勢ぞろいだよ」 勝也さんが囲炉裏のある部屋に入ったところで言ったので、三男は立ったまま家族を紹介した。 「お義母さん、莉乃と美岬と千春です。美岬は26歳、…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <17>
8月13日の昼過ぎ、山田三男・莉乃・美岬・千春の4人を乗せたワンボックスカーが群馬県沼田市の本田家に向かっていた。運転しているのは莉乃の兄・勝也さんだ。1年前の4月にも、三男は同じタイプのレンタカー…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <16>
「ふざけないで。アナウンサーを辞めるなんて、冗談じゃないわ」 美岬の結婚→引退願望を聞くなり、莉乃はわめいた。テーブルの端に積まれていた新聞を破いては投げ捨てたので、3分後にはリビングルームが…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <15>
「山口百恵か。もちろん覚えてるけど、僕より5つか6つ年上だし、大人びた人だったから、ファンにはなりようがなかったなあ」 三男は正直に答えた。山口百恵が三浦友和と結婚して引退した1980年10月…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <14>
「どうした。中村さんとの関係で、何か困っていることがあるのか? おたがいのことが好きで、交際もうまくいっているから、結婚することにしたんだろ?」 借金、ドメスティックバイオレンス、アルコール中…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <13>
〈タクシーに乗りました。道路が空いているので、40分ほどで着くそうです。〉 「ニュース10」が終わって、まだ7~8分しか経っていない。美岬がそんなに急いでいるのは、こちらの迷惑を考えてに違いなか…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <12>
「結婚したい男の人がいるって、いきなりすぎひん」 千春の指摘はもっともだった。しかし結婚↓退職という流れを意識しているために、美岬が仕事に集中し切れていないと考えると納得がいくのだ。 「…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <11>
「なあ、おとうはん。ウチ、思うんやけどな、美岬姉ちゃんって……」 千春が言ったのと、「ああ、そうか」と三男が声を上げたのは、ほぼ同時だった。午後9時過ぎで、三男は夕飯のあとに入った風呂から出た…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <10>
テレビに映る美岬の顔色は悪くないが、持ち前の明るさが見られない。 ただし、それは身内の見方であって、ネットには美岬を褒める意見が溢れていた。 「山田美岬、今夜もマジ可愛い」 「美…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <9>
莉乃は、実の娘でありながら、要介護3の認知症と判定された母親をまるで心配していないように見えた。 新婚時代、新座の団地に来てくれた静江さんと莉乃が仲睦まじく話す姿を覚えているだけに、三男は妻…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <8>
千春は静江さんにも気に入られた。もっとも、要介護3の静江さんには、千春が莉乃に見えているらしい。 千春の身長は148センチで、莉乃は小学3年生の時にそのくらいあったという。千春と莉乃は顔がそ…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <7>
やがて夏休みになり、三男は千春と連れ立って沼田に向かった。 「おジイはん、おバアはん、ウチや。また来たったで」 千春が玄関の引き戸を開けて大きな声で挨拶をした。 「おお、チビ助か…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <6>
佐藤さんも兄たちの能力の高さを認めていたが、強力なライバルが現れた。 「仮に平さんとしておこう。佐野にある名家の一人娘で、亮二と同じ年の平さんはスプーン曲げの天才だった」 平さんは兄た…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <5>
「世界が止まったのではなく、私とあなただけが時間の影響を受けずに活動しているのです」 宇宙人の説明をそのまま話す佐藤さんも宇宙人のようだったと言って、同じメーカーの色違いのポロシャツを着た兄た…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <4>
三男が2階に上がると、手前の部屋から声が聞こえてきた。 「こっくりさん、こっくりさん。小田みゆきさんの両親が離婚しないようにするには、どうすればいいですか」 たぶん松本さんの声だが、ド…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <3>
「大丈夫だけど、珍しいね。そっちこそ、仕事が忙しいんじゃないの?」 長兄の英一は父と同じ公認会計士になった。都内の大手事務所に7年間勤めたあと、黒磯で開業した。父の顧客を引き継いだだけでなく、…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <2>
〈われは山田美岬の守護霊なり〉 筆で書かれたおどろおどろしい文字にも驚かされたが、本当に恐ろしかったのは、その左側に書かれた言葉だった。 〈われは山田英一・亮二の義兄弟なり〉 山…
-
第3話 百恵ちゃんフォーエヴァー <1>
「♪ゲゲ ゲゲゲのゲ~」 買い物帰りの山田三男は「ゲゲゲの鬼太郎」の歌を口ずさみながらママチャリをこいだ。前かごには野菜や肉がいっぱい詰まったエコバッグが入っている。 あすからは海の日…
-
第2話 星一徹の涙 <19>
「ねえ、おとうさん。あたしはずっと言っていたでしょ。いつか勝也や莉乃や三男さんがこの家に集まって、孫たちも来て、みんなで楽しく話せる日がくるって。ああ、嬉しい。これで思い残すことは何もないわ。おとうさ…