五木寛之 流されゆく日々
-
連載9957回 すべての常識を疑え <1>
〈すべてを疑え〉 とマルクスは言った、と昔、先輩からきいたことがあった。学生時代のことで、そのときはえらく感銘したものだ。しかし、今にして考えてみると、その話が本当なのかどうか、すこぶる疑わしくな…
-
連載9956回 「論理」と「道理」と「情理」 <5>
(昨日のつづき) 論理だけでは現実は解明できない。また「道理」を旗として立てても、その通りにはならない。 「無理が通れば道理引っこむ」 という古くからの諺もある。「論理」には偶然という要素を…
-
連載9955回 「論理」と「道理」と「情理」 <4>
(昨日のつづき) 「論理」だけで世の中が割り切れるものではない。そのことは誰しも日常の暮しの中で実感していることだろう。 しかし、「道理」もまた、それだけではなかなか通用しない世の中である。 …
-
連載9954回 「論理」と「道理」と「情理」 <3>
(昨日のつづき) 〈情理をつくす〉 と、いう言い方がある。 人を説得したりする際に、さまざまな面から相手に納得してもらう誠意ある工夫だ。 そこでいう「情理」とは、「情」と「理」の二本立て…
-
連載9953回 「論理」と「道理」と「情理」 <2>
(昨日のつづき) 世界は理性によって導かれる。 それはすべての知識人たちのつきせぬ夢だろう。いま、反知性主義への批判が多いのもそのためだ。 理性とは、いうなれば論理的に物事を考えることだ。…
-
連載9952回 「論理」と「道理」と「情理」 <1>
(昨日のつづき) 英国のEU離脱について、世界にショックが走っている。この国では、ほとんど円高と株安でしか論じられていないようだが、実は大きな問題かもしれない。 私は政治のことには、ほとんど知…
-
連載9951回 『玄冬の門』をくぐれば <5>
(昨日のつづき) 子供や若い人は減っていく。そして団塊の世代は津波のように高齢化していく。そんな時代は、この国にこれまでほとんどなかった。いま、未体験ゾーンが幕を開けるのだ。 そんな時代に、高…
-
連載9950回 『玄冬の門』をくぐれば <4>
(昨日のつづき) きょうのゲンダイの記事に、 「アルツハイマーは感染症ではないか」という話が紹介されていておもしろかった。 医学の常識というのは、日進月歩である。きのうの公式が、きょうはひっ…
-
連載9949回 『玄冬の門』をくぐれば <3>
(昨日のつづき) こんど『玄冬の門』という新刊がでた。「ベスト新書」という新書のシリーズの一巻である。版元のKKベストセラーズからは、これまでに『五木寛之の本』という単行本と、『五木寛之ブックマガ…
-
連載9948回 『玄冬の門』をくぐれば <2>
(昨日のつづき) 最近、よく耳にする言葉に「シルバー民主主義」というのがある。要するに高齢社会における政治状況についての考察だろう。 私たちの歴史のなかで、いまほど高齢期の人びとの存在が注目さ…
-
連載9947回 『玄冬の門』をくぐれば <1>
「玄冬」というのは、人生の四季の最後の季節である。古代中国ではそう考えた。 「青春」 「朱夏」 「白秋」 と続いて、最後に、 「玄冬」という期間がくる。 もっともこれには、いろんな説が…
-
連載9946回 ついに軍門にくだるか <5>
(昨日のつづき) これまで戦後70年間、さまざまな身体的不調に悩まされてきた。決して健康に恵まれたわけではなかったのだ。 しかし、その都度、なんとか病院のお世話にならずに切り抜けてきたのは、幸…
-
連載9945回 ついに軍門にくだるか <4>
(昨日のつづき) 自分の体は自分で治す。治すのではなく、治める。それをモットーにして戦後70年を生きてきた。日常の生活の中で、ありとあらゆる自発的な工夫をこらして、それが効果があったかどうかはさだ…
-
連載9944回 ついに軍門にくだるか <3>
(昨日のつづき) (昨日のつづき) 最初は単純な筋肉痛だと思っていたのだが、次第に痛みが強くなってきた。ふともものあたりから少しずつ痛みが移動する。特定の場所だけが局部的に痛むというわけではない…
-
連載9943回 ついに軍門にくだるか <2>
(昨日のつづき) 私はこれまで何度となく体の異変を体験してきた。大学に入学するとき、戦後はじめてレントゲン撮影を受けた。 「以前、なにか呼吸器関係の病気をしたことがありますか」 と、そのとき…
-
連載9942回 ついに軍門にくだるか <1>
「軍門にくだる」 という表現は、「敵の軍門にくだる」というふうに用いるのが正しい。 要するに白旗をかかげて全面降服することだ。この春からずっと迷っていたのだが、ようやく決心がついたところである…
-
連載9941回 モハメッド・アリ追想 <5>
(昨日のつづき) モハメッド・アリとのインターヴューが雑誌に掲載されてからかなりたった頃、深沢七郎さんと対談の仕事が舞いこんできた。深沢さんのほうから、対談をやりませんか、というお話があったのだ。…
-
連載9940回 モハメッド・アリ追想 <4>
(昨日のつづき) こういうアリの発言を、嘲笑する人たちも少くなかった。来日したアリの部屋を訪れたテレビマンは、彼のベッドの上に何冊かのペンギンブックが積んであったのを見て、「アリは本を読むんですね…
-
連載9939回 モハメッド・アリ追想 <3>
(昨日のつづき) 1時間ほど過ぎると、アリはその場に慣れたのか、すこぶる饒舌になった。アメリカの黒人たちは、過去400年の間の西欧化の下で、白人のやり方に慣れすぎてしまった、と彼は語りだした。 …
-
連載9938回 モハメッド・アリ追想 <2>
(昨日のつづき) アメリカで感心するのは、過去のヒーローを大事にあつかうことである。映画でも、スポーツでも、音楽でも、みなそうだ。それは古い歴史を持たない国民のコンプレックスではあるまい。歴史を大…