五木寛之 流されゆく日々
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連載10809回 時代のテストステロン <4>
(昨日のつづき) 東京オリンピックは、令和最大のサーカスだ。その祭りの終った後はどうなるか。 平凡な日常への回帰は、もうないだろう。刺戟に刺戟を重ねて、なかば麻痺した国民感情は、さらなる刺戟を…
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連載10808回 時代のテストステロン <3>
(昨日のつづき) <パンとサーカス>というのは余りにも有名な言葉だが、よく言ったものである。 問題の中心に注目されずに、人びとの関心をちがう方向にむける。民衆は常にお祭り好きなものなのだ。 …
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連載10807回 時代のテストステロン <2>
(昨日のつづき) 以前、メガビタミン主義というのが注目を集めたことがあった。アメリカからやってきた流行である。 ビタミンCを中心に、さまざまなビタミンを超大量に摂取するという健康法だ。私は若い…
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連載10806回 時代のテストステロン <1>
正月気分も昨日で終った。きょうからはこのコラムを皮切りに、いろんな連載の原稿の締め切りが待っている。さあ、働かねば。 机に向かって原稿用紙に文字を書く。いまや石器時代の作業のようだ。野坂昭如、井…
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連載10804回 令和元年の年の暮れ <4>
(昨日のつづき) 今年の週刊ジャーナリズムの話題は、健康と終活だった。 飲んではいけない薬の品名にドキリとした読者も少くないことだろう。 死の問題は、死そのものの考察よりも、相続とか死後処…
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連載10803回 令和元年の年の暮れ <3>
(昨日のつづき) 最近は門松というものをあまり見なくなった。戦前、戦中は普通の家の玄関先には、必ず門松が立っていたものである。 〽年の始めのためしとて 終りなき世の目出たさを と…
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連載10802回 令和元年の年の暮れ <2>
ここ数年、マスコミの世界にも大きな変化が顕在化した。大手新聞社の新聞発行部数も年ごとに減少の方向をたどっている。週刊誌も話題になるわりには低調だという。 活字文化そのものに大きな変化の波が押…
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連載10801回 令和元年の年の暮れ <1>
また今年も暮れる。毎年のように同じ感慨を抱きつつ一年を過ごしてきた。 香港やパリではデモが渦巻いた年末だったが、この国では皇室ブーム、ラグビーブーム、そしてオリンピックブームと、催事の連続のうち…
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連載10800回 再度、方言について <5>
(昨日のつづき) 先日、福岡へ行ったとき、小学生に方言で道をたずねたら、けげんな顔をされた。 「そこに行くのなら、この道がいいと思います」 と、歯切れのいい共通語で答えられて、あらためて時代…
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連載10799回 再度、方言について <4>
(昨日のつづき) 前にも何度も書いたことだが、私が若い頃、『三大方言作家』とからかわれた仲間がいた。 寺山修司と立松和平と、私の三人である。この「大」というのは「ビッグな」という意味ではない。…
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連載10798回 再度、方言について <3>
(昨日のつづき) 私が中学生の頃、福岡県と熊本県の県境の店の手伝いをしていた事があった。 山中峠とか、小栗峠とかいった山中の店である。今でいうならドライブ・インといったところだろう。 福岡…
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連載10797回 再度、方言について <2>
(昨日のつづき) 私は九州出身なので、東の方言はほとんど知る機会がなかった。しかし、若い頃にちょっとだけ青森の人とのつき合いがあって、青森、津軽地方の方言のニュアンスは、なんとなくわかる感じがある…
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連載10796回 再度、方言について <1>
先日、中西進さんと対談をさせていただいた。ご存知、万葉学者の中西進先生である。 『令和』が新元号に決まっていらい、その発案者と目された中西さんは、国民的関心の的となって、超多忙な日々が続いているら…
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連載10795回 ピンピン・ソロリの夢 <5>
(昨日のつづき) このところ様々な人の訃報に接することが多い。時代の回転扉がゆっくりと回っていくような実感がある。 私たち昭和ヒトケタ世代が去り終ると、その後には、いわゆる「団塊の世代」の大退…
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連載10794回 ピンピン・ソロリの夢 <4>
(昨日のつづき) 昔、あるドクターが人生二回説をとなえて、話題になったことがあった。 20代の若いうちに、うんと年上の女性と結婚する。ある程度の経済力のあるキャリアウーマンが望ましい。 そ…
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連載10793回 ピンピン・ソロリの夢 <3>
(昨日のつづき) かつて満州国や台湾では、阿片を利用して植民地経営の財政的土台とした。富裕層には阿片を、労働者たちにはモルヒネを使用させたのである。 古い中国や満州には、阿片窟と呼ばれる店があ…
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連載10792回 ピンピン・ソロリの夢 <2>
(昨日のつづき) 「この世は苦の世界である」 仏教はそこにどう生きるかを教える道としてスタートした。 人生五十年といえども大変だ。まして百年生きるとなれば、想像を絶する。しかも成長期、安定期…
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連載10791回 ピンピン・ソロリの夢 <1>
このところ老衰による死が激増しているらしい。 昔は死亡原因を「老衰」と書くのは医者としてはばかられる事だったという。もっともらしい死因、病名を無理してでもつけたのだろう。 しかし、老衰という…
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連載10790回 回想の森をめぐって <5>
(昨日のつづき) いま私たちの世界は、ほとんど回想することを忘れているかのように思われる。 戦後七十余年、最近は戦前、戦中、戦後の記憶さえ回想されることが少い。 「そんなことはないんじゃない…
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連載10789回 回想の森をめぐって <4>
(昨日のつづき) 回想にふけるというのは、イメージとは反対に、積極的な行為である。それは個人の歴史をふり返るだけではない。 私たちは常に一つの時代を生きてきた。自分の過去を思い返すことは、当然…