著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<19>オレの80年代は末井昭がつくったようなもんなんだ!

公開日: 更新日:

 スエー(末井昭、編集者・作家)と出会って(1976年)、雑誌を一緒にやって、写真集もいったい何冊出しただろうなぁ。末井が編集長の雑誌で連載を始めて、すぐに何冊も出したんだよ(1978年『男と女の間には写真機がある』『激写「女優たち」』、1980年『偽ルポルタージュ』『偽日記』刊行)。

 新しい雑誌を出そうということになって、最初は末井が「荒木さんの雑誌をつくろう」って、「『アラキカメラ』とか『月刊アラキ』をつくろう」って言ってくれたんだけどね、やめようって言ったんだ。自分の雑誌なんて嬉しいけどね、「そんな個人雑誌なんてダメだって。いくら頑張ったって1万部も売れないよ」って言ったんだ(笑)。

 雑誌の名前も、2人で新宿の「DUG」(ジャズ喫茶)で考えたね。覚えてるんだ。ニエプス(写真技術の先駆者)だとかダゲール(銀板写真の発明者)だとか、口に出すわけ。オレ、写真界のインテリだからさ(笑)。まあ、酒飲んでるしね。二人で飲んだくれてさ。そんなのは、なしになっちゃう。そういえば、『蛍雪時代』(旺文社)ってあったよなって話になって。これからは写真の時代だって、そうだ!写真で時代をつくっちゃおうって言ってね、『写真時代』にしたの。『蛍雪時代』のパクリじゃないからね(笑)。カタカナでカッコつけてた時代だろ。『アンアン』とかさ。オレはそういうのも気にして、新しい感じの本を出すのかなって思ってたんだけど、末井は、そういうの一つも考えていないんだよ。「写真の時代だ! 『写真時代』だ!」って。それで、意気投合しちゃうんだ。じゃあ、やっちゃうぞって。

(1981年創刊の『写真時代』は、荒木と末井の最強タッグで1980年代を席巻した「伝説の写真雑誌」。荒木を中心に、森山大道、倉田精二、北島敬三などの写真家たち、執筆陣に、赤瀬川原平、南伸坊、渡辺和博、上野昂志、橋本治、糸井重里といった顔ぶれ。過激な表現により、何度も警視庁より編集長の末井が呼び出しを受ける。最終号は1988年4月号。廃刊となった直接的な理由は猥褻図画販売容疑で警視庁からの回収命令が出て「発禁」となる)

■オレがもっている「風」と「俗」を見抜いた男

 その頃から、みんな末井に見抜かれていたわけよ。方向が、全方向あるということをね。風と俗、風俗ね、全部撮れるという。たいがいね、カッコつけたいヤツは、風を撮ろうと思うわけだよ。風だけにするのが、アートで純粋だと思うじゃない。末井は気づいているわけだよ。すごく、オレが俗をもっているということをさ。もう善悪だろうが、清濁だろうが、なんでもあるっていうことをね。

 あの頃は、週に何度も会ってたね。オレの80年代は末井がつくったようなもんなんだ。最初からオレのことを見抜いていたわけだよ。末井はオレのことを“雑誌みたいな人”って言うんだよね。いろんな要素を持ってるから、いろんなものがつくれるって。

(構成=内田真由美)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    松本人志「事実無根」から一転、提訴取り下げの背景…黒塗りされた“大物タレント”を守るため?

  2. 2

    島田洋七が松本人志復帰説を一蹴…「視聴者は笑えない」「“天才”と周囲が持ち上げすぎ」と苦言

  3. 3

    人気作の続編「民王R」「トラベルナース」が明暗を分けたワケ…テレ朝の“続編戦略”は1勝1敗

  4. 4

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  5. 5

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  1. 6

    松本人志が文春訴訟取り下げで失った「大切なもの」…焦点は復帰時期や謝罪会見ではない

  2. 7

    窪田正孝の人気を食っちゃった? NHK「宙わたる教室」金髪の小林虎之介が《心に刺さる》ファン増殖中

  3. 8

    井上真央ようやくかなった松本潤への“結婚お断り”宣言 これまで否定できなかった苦しい胸中

  4. 9

    菊川怜が選んだのはトロフィーワイフより母親…離婚で玉の輿7年半にピリオド、芸能界に返り咲き

  5. 10

    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇