孤独のキネマ
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『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』排他主義とセクハラが横行するボリショイ・バレエの陰湿な裏舞台
本作はクラシックバレエの世界を舞台にした一種のスポコンドラマ。だが野球やサッカーと違い、見ていると次第に気分が滅入ってしまう。バレエの特訓よりも、主人公が直面した苦難をストレートに描いているからだ。…
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『花まんま』結婚を目前に控えた兄妹。妹は死者と交流する不思議な秘密を抱えていた
最初は「なんだか退屈なドラマだな」と思わせながら、徐々に展開がミステリアスになり物語のスケールが広がっていく。そんな映画をたまに見かける。この「花まんま」もそうした一本だ。下町人情話風の月並みなセリ…
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『太陽(ティダ)の運命』オスプレイ、教科書問題、辺野古基地 大田昌秀を追い落とした保守政治家・翁長雄志の「原点回帰」
ドキュメンタリー映画とは重宝なものだ。わずか1、2時間で社会的な事件や歴史を学ぶことができるのだから。この「太陽の運命」もしかり。上映時間129分で沖縄の現代史をしっかり復習できる。「太陽」は「ティ…
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『プロフェッショナル』お約束の“引退する殺し屋”が革命組織IRAの鉄の女とドンパチ
リーアム・ニーソンはすごい。あの年で殺し屋としてしっかり戦っている。だから彼の新作をつい見てしまうのだ。 本作の舞台は1974年の北アイルランド。血塗られた過去を捨て去りたいと願う殺し屋フィ…
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『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』独裁者に心酔し国民を戦争と虐殺に駆り立てた男の末路
共和党支持者は「トランプはディープステートと戦っている」と主張し、立花孝志は「黒幕は竹内元県議だ」と声を張り上げた。彼らの言説を信じた有権者によって、トランプと斎藤元彦は再選された。「真実とは何か?…
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『1980 僕たちの光州事件』幸せな家族の視点から非常戒厳の残虐性を追求。軍隊はなぜ市民を殺したのか?
昨年12月、韓国の尹錫悦大統領が非常戒厳を宣布し、国内を大混乱に陥れた。このとき日本のマスコミは「45年ぶりの非常戒厳」と報じた。前回の非常戒厳令は朴正煕大統領が暗殺された1979年10月26日の翌…
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『陽が落ちる』切腹を命じられた武士の最期に封建社会の不条理を味わう
昨年の時代劇映画の話題作といえば、幕末の侍が現代の撮影所に迷い込む「侍タイムスリッパー」。よくできたコメディーとして評判を呼びヒットとなったが、今年の時代劇ではこの「陽が落ちる」が話題をさらうかもし…
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『アンジーのBARで逢いましょう』御年91歳、草笛光子演じる謎の老女がもたらした「幸福の余韻」
この数年の草笛光子の快進撃は目を見張るものがある。2021年に「老後の資金がありません!」に脇役出演して気丈ながら少しドジな老女を好演。その存在感が認められ、昨年の「九十歳。何がめでたい」では長い女…
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ニコール・キッドマン『ベイビーガール』 客席を圧倒するM女の喘ぎ声
筆者は男だから、女性の心理はよく分からない。これまでの人生で「女は不可解なもの」「女とは何ぞや?」と首を捻ってきた。 そうした疑問になにがしかの答えを与えてくれたのがこの「ベイビーガール」だ…
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「光る川」高度経済成長期の1958年、少年は病母のために川をさかのぼり、大昔の悲恋に遭遇する
「現代人が忘れた自然への畏怖」――。山岳を舞台にしたドラマやドキュメンタリーを語るときに使われる月並みな言葉だが、この「光る川」を見ると、いつしか自然への畏敬の念を抱いてしまう。 時代は195…
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コンクラーベの裏側を暴いた『教皇選挙』 作品のメッセージをどう解釈するかでその人の知性が分かる
「コンクラーベ」とはバチカン市国の元首にしてカトリック教会の最高指導者であるローマ教皇を選ぶ選挙のこと。キリスト教徒が比較的少ない日本でも「コンクラーベで教皇が決まった」というニュースを耳にする。「根…
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『逃走』が描く逃亡犯・桐島聡 血まみれ爆破事件の「悔悟」と「逃げる理由」
団塊世代にとっては気になる映画だろう。昨年1月、新左翼過激派集団「東アジア反日武装戦線」のメンバーで、長らく逃亡中だった桐島聡が死亡した(享年70)。神奈川県鎌倉市の病院に末期がんの患者として入院し…
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和歌山毒物カレー事件の真相に肉薄した『マミー』 死刑囚・林眞須美は真犯人なのか?
この映画は昨年8月に公開され、小規模に上映されてきた。3月16日(日)、横浜の大倉山ドキュメンタリー映画祭で上映される。二村真弘監督のトークショーも開催される予定だ。 本作を初めて見たとき筆…
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『ANORA アノーラ』底辺ストリッパーが挑む、コワモテ用心棒&女たちとの壮絶バトル
昨年5月、第77回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。現在、第97回アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演女優賞など6部門にノミネートされている注目作だ。R18+指定から分かる通り、ベッドシーンが多い…
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中原中也、小林秀雄、長谷川泰子の三角関係…彼らはなぜ愛し、そして憎んだのか?
中原中也と長谷川泰子、小林秀雄――戦前のある時期、この3人は奇妙な三角関係でもつれ合っていた。詩人・中原中也のファンの中には中也と泰子がどのような経緯で結びつき、別れていったのか、小林はどんな人物だ…
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『敵』夢と妄想に取り憑かれた男の敵は…妻の「呪縛」か?
公開は今年の1月17日。2024年の第37回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、東京グランプリ、最優秀監督賞(吉田大八)、最優秀男優賞(長塚京三)の3冠を獲得した話題作だ。1998年に書か…
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ミュンヘン五輪襲撃事件をテレビ報道陣の視点で描く緊迫の90分
60歳以上の人なら1972年に何が起きたかを覚えているだろう。この年の9月5日、西ドイツ(当時)で開催されたミュンヘン・オリンピックの選手村にパレスチナ武装組織「黒い九月」が侵入。イスラエル人の選手…
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トイレ掃除に打ち込む独身男の“悟りの境地”『PERFECT DAYS』ラストの笑みは何を物語るのか?
ヴィム・ヴェンダースがメガホンを取り、役所広司に第76回カンヌ国際映画祭の男優賞をもたらした話題作。渋谷区の17カ所のトイレを刷新するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」がきっかけで、当…
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北野武『首』 織田信長の「狂気」はパワハラ上司に苦しむサラリーマンにこそ見て欲しい
「残酷すぎる」「気持ち悪い」「ストーリーにまとまりがない」「何を言いたいのか分からない」――と厳しい評価を受けているのが北野武監督(写真)の時代劇映画「首」だ。製作費15億円を投じた大作である。 …
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「広島」「被爆者」――50年前の恋人を探す男がたどりついた「別れの真相」
人は老年に達し、残りの人生を意識したときに何をしたいと望むだろう。多くの人は過去に向き合おうとするのではないか。実は60代半ばの筆者も同じ。この数年、昔の友人・知人を訪ねてみたいという願望が高まって…