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大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

早くもアカデミー賞効果!「ドライブ・マイ・カー」と「おくりびと」の“違い”を紐解く

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 今年の米国アカデミー賞が例年にない注目を集めている。日本映画の「ドライブ・マイ・カー」(監督・濱口竜介)が、作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の4部門でノミネートされているからだ。

 このうち作品賞、脚色賞のノミネートは日本映画史上初の快挙である。本作はノミネートが発表された2月8日(日本時間)から動員をぐんぐん伸ばし、23日時点で興収6億1000万円。2週間ほどで約2億6000万円が加算されたことになる(現在のスクリーン数は240)。

 このようなアカデミー賞効果で思い出されるのは、「おくりびと」(監督・滝田洋二郎、2008年9月13日公開)だ。公開から年をまたいで外国語映画賞(現・国際長編映画賞)でノミネートされ、受賞まで至った。このときの動員の伸び具合が凄まじかった。

■アカデミー賞受賞によって“国民的映画”に…

 09年の1月末段階では、30億5000万円ほどだった興収はアカデミー賞を介して、最終的には2倍以上の64億8000万円まで膨れ上がった。もともと大ヒットしていたが、アカデミー賞によって国民的映画な広がりを見せたのだ。

 2000年以前は今とはメディアの発信や人々の関心度の違いもあるので、効果のほどは分かりにくい。よって、2000年以降の日本映画の受賞、日本映画、日本人のノミネート作品の動向を振り返ってみよう。

 米国映画ではあるが、「ラスト サムライ」(04年=アカデミー賞発表年、渡辺謙の助演男優賞ノミネート)に大きな効果があったと記憶している。というのは、本作の公開日は2003年12月6日で、年を越してアカデミー賞のノミネートがあった。その過程で渡辺謙のノミネートが、メディアで大きく取り上げられたのを覚えている。本作の最終的な興収は何と137億円にまで跳ね上がった。

「千と千尋の神隠し」(03年=同、長編アニメ映画賞受賞、316億8000万円)や、「万引き家族」(19年=同、外国語映画賞ノミネート、45億5000万円=19年1月末時点)も挙げてみたいが、2本ともアカデミー賞の受賞(前者)、及びノミネート(後者)に至るまで公開からかなり日にちが経っている。

 アカデミー賞効果ということで言えば、それほど大きなものではなかったと見ていい。「万引き家族」は18年の6月8日公開で、同年5月に開催されたカンヌ国際映画祭のパルムドール受賞効果が絶大で興収を押し上げた。このときもメディア報道は群を抜いて大きかった。

「ドライブ・マイ・カー」ノミネートの大快挙から期待すること

 かつて、アカデミー賞は洋画興行に欠くことができない要素だった。洋画配給会社は、ノミネートから受賞発表に至る期間に候補作と目される作品を公開することも多かった。アカデミー賞を当て込んだのだ。巨額の興収に大貢献した代表作は、「タイタニック」(98年=同、作品賞など11部門受賞、推定262億円)がその筆頭になるだろう。

 それが近年では威力が低下している。メジャー・スタジオ作品の受賞が減少してきたこともある。「パラサイト 半地下の家族」(20年=同、作品賞など4部門受賞、47億4000万円)は、むしろ例外的な波及効果と言っていい。その低下傾向は米国映画を中心にした洋画興行の不振と歩調を合わせたようにも見えてくる。

「ドライブ・マイ・カー」が国内の映画興行に及ぼしつつあるのは、「おくりびと」のような国民的映画の大ヒットへの道ではないかもしれない。数字の多寡ではない。本作はおそらく、主要部門ノミネートとしては、アカデミー賞史上もっとも低予算の部類に入るだろう。

 この大快挙、そこから広がる新たな興行展開は、大手の映画会社によらない独立系の製作会社やプロデューサー、監督たちに並々ならぬ勇気を与えているに違いない。これが重要だと言うのである。

 アカデミー賞効果が洋画から日本映画に移っていくことが、今後増えていくとしたらどうだろうか。それは製作から興行に至るさまざまな日本映画の枠組みさえもひっくり返すことにつながる。映画祭や映画賞を妙に意識した映画製作を目指せということではない。作品の深化をとことん追求した結果が賞に結びつく。興行面の成果も広げる。そのような日本映画の出現を数多く期待したいものだ。

 米国アカデミー賞の発表は3月28日(日本時間)。さてどうなるか。

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