「ドライブ・マイ・カー」米アカデミー賞ノミネートの“決め手”は…
先日、第94回米アカデミー賞ノミネートが発表されました。授賞式は日本時間の3月28日(月)。日本人の多くが、国際長編映画賞以外にも脚色賞、監督賞、作品賞でノミネートされた『ドライブ・マイ・カー』に注目しています。そもそもカンヌ国際映画祭脚本賞をはじめ、世界の名だたる映画賞を席巻している本作。このまま行けば韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(2019年)のように国際長編映画賞以外にも受賞なるか? と期待が膨らみます(『パラサイト』は他に作品賞、監督賞、脚本賞を受賞)。
■そもそもアカデミー賞がなぜ注目なのか
ではなぜ、これほどまでに米アカデミー賞に注目が集まるのでしょうか。そもそもハリウッド映画という言葉が知られるほど、世界の映画マーケットのメインストリームを歩いているのがアメリカ映画です。その理由のひとつに「映画の都」ともいわれているハリウッドには、世界公開を意識した映画製作をする大手映画会社が集中していることにあります。
ロサンゼルスで開催される米アカデミー賞は、俳優を含む映画業界で働く人々が審査員を務め、ロサンゼルスの映画館で連続1週間以上、有料上映された作品が対象になります。この華やかなステージで受賞すれば世界的に知られるというメリットが生まれ、興行的にも大いに役立つのです。
しかも日本映画が米アカデミー賞作品賞にノミネートされたのは史上初であり、監督賞ノミネートは勅使河原宏監督(『砂の女』1964年)、そして黒澤明監督(『乱』1985年)以来36年ぶり。それを踏まえた上で今年の監督賞ノミネーションの顔ぶれを見ると改めてアカデミー賞というものが、世界を代表するエンターテイメント賞だと実感してしまいます。
スピルバーグら巨匠もノミネート、本命は?
多くの映画ファンに崇拝され、今までも『シンドラーのリスト』(1993年)、『プライベート・ライアン』(1998年)で2度監督賞を受賞しているスティーヴン・スピルバーグが、アカデミー賞10部門を受賞したミュージカル映画の金字塔をリメイクした『ウエスト・サイド・ストーリー』でノミネート。
続いて『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)、『ファントム・スレッド』(2017年)で監督賞にノミネートされてきたポール・トーマス・アンダーソン監督が『リコリス・ピザ』で再び名を連ね、名優ケネス・ブラナーが自身の少年時代を映画化した『ベルファスト』で『ヘンリー五世』(1989年)以来の監督賞にノミネート。そして女性監督であり『ピアノ・レッスン』(1993年)で脚本賞を受賞したジェーン・カンピオンが『パワー・オブ・ザ・ドッグ』で作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞含む11部門12ノミネートという本年度最多で本命とも囁かれています。
■濱口竜介監督の世界基準な映画づくり
映画ファンならば興奮を隠せない錚々たる顔ぶれとなった本年度アカデミー賞監督賞ノミネート。そこに脚本力、演出力はもちろんのこと、画作りにおいても独自の世界観を持つ43歳の濱口竜介監督が、世界で愛される村上春樹の短編をオリジナル映画のように紡ぎ上げ、喪失と再生を綴る映画『ドライブ・マイ・カー』で挑みます。
本作がこれだけの評価を得た背景には、ロシアの文豪であり劇作家のチェーホフの「ワーニャ伯父さん」を手話も入った多言語演劇で見せ、さらに広島平和記念公園で肌の色も言語も異なる役者たちが演劇を通して繋がるという、世界平和とエンターテイメントの力へのメッセージも汲み取られたのではないかと考えます。
まさに日本人に向けてではなく、世界の人々へ向けて作られた映画であるからこそ言語を超えたノミネーションに至ったのです。