「志の吉にねずみをやれと命じたのは私です」
真打ち昇進を目指して会を始めた志の吉だが、昇進までの道のりは遠かった。
「会を4回開いて、毎回DVDに録画して、師匠にチェックしてもらい、最終回に師匠が出演して合否を発表する段取りでした。師匠が高座で、『真打ちに値します』と言ってくれました。でも、『真打ちにする』とは言ってない。後で、『何かが足らない』と言われました。追試は、僕の客の前でなく、師匠のお客の前で『ねずみ』を演じることでした」
「ねずみ」は志の輔が得意とする人情噺の大ネタである。
「師匠のスケジュールを調べて、長野県飯田市で独演会があると知り、会場について行きました。そこで『ねずみ』をやってこいと言われ、高座に上がりました。前座の次に出て、いきなり大ネタをやり出したのに、温かいお客さまで、よく聴いてくれて反応もよかった。次に上がった師匠が『志の吉にねずみをやれと命じたのは私です。皆さんは、弟子が真打ちになる瞬間を見届けた、と思っていただいてけっこうです』と言ったことで、昇進が決定したわけです」
なんとも劇的な昇進話ではないか。