著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<65>オレはヨーロッパよりソウルのほうに「生」を感じたんだ

公開日: 更新日:

 韓国に行くたびに、最初に中上健次さん(小説家)と歩いたソウルの路地を思い出すんだよね(1984年)。で、すっごく印象に残ったタル・トンネ(“月の村”の意味、ソウル郊外の金湖洞の別名)に、いつも行きたくなるんだ。貧しい人たちの街でさ、そこに太地喜和子がいたのよ(女優、1992年に事故のため48歳で急逝)。いや、ホントの太地喜和子じゃなくて、オレが「太地喜和子だ!」って言って撮った少女なんだけどね(笑)。 

 その後、2000年に行ったとき、道が舗装されて少しはきれいになっていたけど、やっぱりデコボコ道の路地でね、前と同じように雨が降るんだ。路地が坂になってるから水が流れるんだね、パーッて。状況はまったく以前のままなの。そうなると、あとは太地喜和子だけでしょ、出てこなくちゃいけないのは。そんで「少女が出てくんぞ」って言ってると、これが出てくんだよね~。雨の中、少女の太地喜和子を待ちながら撮ってると、う~ん、きたね! 桃色少女。桃色の傘とレインコートの少女。シークエンス(場面の流れ)を作るんじゃなくて、写される側にドラマがあるってオレは言ってたんだけど、それなんだね。まわりにドラマも物語もあるのよ、だからそれを撮ればいいだけなんだね。

バイタリティあふれる生活のスタイルが魅力

 この頃はヨーロッパに行くことが多かったんだけど(1997年オーストリア・ウィーンのセセッション設立100周年記念の大規模な個展開催で16年ぶりに渡欧。2000年イタリア・プラートのルイジ・ペッチ現代美術センターで個展、プラート、フィレンツェ、ナポリ、ローマ、ミラノをまわり撮影)、東京とソウルの関係のが、ウィーンとの関係よりもオレに近いような感じがしたね。ウィーンは、行ったらすぐに、もうねぇ、死そのものの街っていう風に思っちゃったから、それに比べると、“ソウルは生の街だ”って思ったね。ヨーロッパ全体が、歴史があるとか洗練されてるとか、カッコいい風に言ってて、まあ、カッコいいんだけど、オレはヨーロッパよりソウルのほうに生を感じたんだ。20年ぐらい前だけど、バイタリティあふれる生活のスタイルが魅力でね、生きてるっていう強さを感じたものなあ。「センセ、センセ」「シャチョウサン、シャチョウサン」て呼ぶんだよ、ポン引きがね(笑)。

『小説ソウル』(写真集、2001年スイッチ・パブリッシングより刊行)には、ニューハーフも入れたんだよ。<ヨボヨボ>っていう店のニューハーフ。店の名前がおもしろいから覚えててね。日本の有名タレントなんかもよく行く店らしくて、ある歌手なんか「あの人、ヤ~ねっ、威張ってて!」って言われてたな。ヘンなとこでいろんなことがバレちゃうよな(笑)。 

(構成=内田真由美)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  2. 2

    ヤクルト「FA東浜巨獲得」に現実味 村上宗隆の譲渡金10億円を原資に課題の先発補強

  3. 3

    どこよりも早い2026年国内女子ゴルフ大予想 女王候補5人の前に立ちはだかるのはこの選手

  4. 4

    「五十年目の俺たちの旅」最新映画が公開 “オメダ“役の田中健を直撃 「これで終わってもいいと思えるくらいの作品」

  5. 5

    「M-1グランプリ2025」超ダークホースの「たくろう」が初の決勝進出で圧勝したワケ

  1. 6

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  2. 7

    福原愛が再婚&オメデタも世論は冷ややか…再燃する「W不倫疑惑」と略奪愛報道の“後始末”

  3. 8

    早大が全国高校駅伝「花の1区」逸材乱獲 日本人最高記録を大幅更新の増子陽太まで

  4. 9

    匂わせか、偶然か…Travis Japan松田元太と前田敦子の《お揃い》疑惑にファンがザワつく微妙なワケ

  5. 10

    官邸幹部「核保有」発言不問の不気味な“魂胆” 高市政権の姑息な軍国化は年明けに暴走する